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北朝鮮の核脅威は、15年前の安倍首相の行動がもたらした可能性

  • 2017年 06月01日 06時30分
  • 提供元:Business Journal
安倍首相(毎日新聞社/アフロ)

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安倍首相(毎日新聞社/アフロ)

 北朝鮮は5月29日、今年だけで9度目になる弾道ミサイル発射を行った。すでに金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は、実戦配備に向けて大量生産を指示している。そもそも、北朝鮮がミサイル発射を続ける目的はどこにあるのだろうか。軍事ジャーナリストの田岡俊次氏に聞いた。

「5月8~9日、ノルウェーのオスロで、北朝鮮の崔善姫(チェ・ソンヒ)米州局長と、アメリカの元国連大使ピカリング氏が会談しました。非公式接触と報じられている通り、米朝交渉に向けて、お互いにどのくらい譲れるかなと腹の探り合いをしているわけです。崔局長は13日に帰国している。その日から、平壌から120km北の亀城(クソン)にある飛行場にミサイルを引っ張り出して、発射準備して14日に撃ちました。あれは、明らかにアメリカに見せるために、偵察衛星で撮影できるように図っていました。


 この14日に発射された火星12号は、1段です、長さは15mくらい。北朝鮮は火星13号を持っており、これはICBM(大陸間弾道ミサイル)だといわれています。それが本当にできているかどうか。パレードに出たのは実大模型で、開発途上だろうというのが一般的な見方でしたが、火星12号が1段のミサイルで2000km以上上がって、30分飛んでいる。ロシアとアメリカの間のICBM飛行時間が約30分。1段で30分飛ぶので、2~3段にすればICBMができてもおかしくない。すでにICBMをつくっているのかもしれないし、必要であればすぐつくれる能力を誇示したとみられます。


 北朝鮮としてはその能力を示した上で、「アメリカに届くICBMはつくらない、その代わりに国交を樹立して、経済制裁の緩和や経済協力をしろ」と要求するのではないか。そういう取引材料にするための発射でしょう。それと逆のことも考えられて、オスロで会ってみたものの双方の間に大変な違いがあり、アメリカが武力行使をしかねないと北朝鮮が考えて、アメリカの攻撃を避けるために報復能力があることを示したという見方もあります。おそらくそれよりは、交渉のカードの価値を高めるため、というのが順当な見方でしょう」


●トランプはたじろいだ


 アメリカは「(オバマ前政権の)戦略的忍耐の時代は終わった」と宣言、トランプ大統領は、「すべての選択肢がテーブルの上にある」と言い、原子力空母を北朝鮮沖に向かわせ、軍事圧力を強めている。一方でアメリカが北朝鮮との対話を模索しているのは、なぜなのか。


「1993年にNPT(核不拡散条約)脱退を一時宣言した北朝鮮はその後残留を表明したものの、核開発を続けている疑いが濃くなり、94年にアメリカは北朝鮮の核施設、原子力発電所と燃料棒の再処理施設を攻撃しようと計画した。だが、現地の在韓米軍の司令部は、もし攻撃すれば53年以来休戦状態にある朝鮮戦争が再開するとして、損害見積もりをワシントンに提出しました。最初の90日で米軍の死傷者5万2000人、韓国軍の死傷者49万人、民間人の死者100万人以上という見積もりにワシントンの政府高官たちは愕然とした。


 そこで、北朝鮮への攻撃は行わないことになり、当時のクリントン米大統領はカーター元大統領に頼んで平壌に飛んでもらい、プルトニウムが出にくい軽水炉を2基提供するからプルトニウムの抽出はやめるということで話はついて、94年の危機は回避されたのです。


 今はその時と比べて、はるかに条件が悪い。原子炉などは固定目標で空から見えるから攻撃は容易だったが、核弾頭になった今はどこにあるかわからない。たとえ一部だけ見つけて攻撃すれば、残っている核弾頭付きのミサイルを日本や韓国に撃ち込んでくる可能性は高い。それに停戦ラインの北の地下陣地にあるのは、当時は大砲でしたが、今は射程60kmでソウルを狙うロケット砲と長距離砲がソウル前面だけで350砲ほどある。車載式ロケット砲は、22発積んでいて1分くらいで全部撃ってしまう。それから反撃しても、空のトラックを壊すだけです。


 トランプはそういうことを、何も知らずに威勢のいいことを言ったものの、国防長官のマティス海兵大将など軍人に説明されてわかったのでしょう。急に萎縮して、中国にお願いするという話になり、「金正恩氏に会えれば光栄」とまで言い出している。在韓米陸軍は韓国陸軍に比べれば規模は小さく、一個機甲旅団、ヘリ旅団、多連装ロケット部隊、対空部隊で計1万9000人。韓国軍は49万5000人です。世界中にいる米陸軍を合わせても47万人くらいなので、韓国軍はそれより多いのです。アメリカが韓国に置いている戦闘機は40機、対地攻撃機24機。韓国軍は480機なので、10倍くらい違う。北朝鮮と戦争となれば、主力は韓国軍になります。


 米韓連合司令部は、一応指揮権はアメリカが持っていることになっていて、連合司令部の司令官はアメリカの陸軍大将。しかし、副司令官は韓国の将軍、それから陸・海軍司令官も韓国人。その他、韓国の将校がいっぱいいるわけだから、アメリカが韓国の了解を得ずに戦争を始めるのは不可能です。韓国が嫌だといえば、できない。韓国がすすんで北朝鮮との戦争を選択する可能性は低い。南北共に壊滅的打撃を受けることになるからです」(同)


 つまりアメリカは、戦争の勃発を軍部が抑えたということだろうか。


「軍人をシビリアンが抑えるという思い込みは誤りです。多くの場合、軍人のほうが戦争の現場をわかっているので、戦争には慎重なんです。戦前の日本のように政治家化した軍人はだめですがね。よくわからない政治家が、開戦への世論を煽ることのほうが多い。


 たとえばイラク出兵の前、日系アメリカ人のエリック・シンセキ陸軍参謀総長が議会で、イラクを攻撃するのであれば数十万人の兵力を数年間投入する必要があると答弁した。ラムズフェルド国防長官ら楽観主戦論者は、7万5000人で2週間で終結させられると主張していた。ラムズフェルドは議場でシンセキ大将を叱りつけ、シンセキはクビになったが、結局シンセキの言ったとおりになった。ソ連がアフガニスタンに侵攻する時でも、オガルコフ参謀総長が危険を説いて猛烈に反対し、ウスチノフ国防相と対立したことが、ソ連崩壊後明らかになりました」(同)


 一時期は、「金正恩の斬首作戦」ということまでいわれていたが、現在も存在するのか。


「アメリカ人には、敵の指導者を殺したらなんとかなるという、他国にはまずない映画のような独特の発想があります。しかし、要人の所在地をリアルタイムで掴むのは不可能に近い。ウサーマ・ビン・ラーディンを殺したのは、アメリカがアフガニスタンに侵攻してから10年後です。サダム・フセインを捕まえたのも、イラクを占領して全土を探し回り、捕まえるまで9カ月もかかっている。斬首作戦なんて無理ですよ。アメリカにやる気はまったくないから韓国での演習で特殊部隊のその訓練を公開している。やるなら言わずに密かに計画するでしょう」(同)


 振り上げた拳の行き場に困り、北朝鮮に対話を乞うトランプ。威勢はよかったが、結果としては北朝鮮に翻弄されているようにみえる。


●平壌宣言履行されず


「今のように北の核ミサイルに日本がさらされないようにするチャンスはあったのです。02年9月17日、小泉純一郎首相が訪朝して、当時の金正日(キム・ジョンイル)総書記に会い調印された日朝平壌宣言は、北朝鮮が核開発を止めますという協定だった。北朝鮮は核に関するすべての国際的取り決めを遵守する。つまりNPTに残りIAEA(国際原子力機関)の査察を受ける、その見返りに日本は国交を樹立し、援助もしましょうという話でした。世界が懸念していた北朝鮮の核問題を日本がほぼ独力で解決したのだから、平壌宣言は「北朝鮮の信じがたい譲歩」を得た日本外交の大成功として世界から称賛され、国際会議で小泉氏は英雄扱いされました。


 しかし、北朝鮮が謝罪したことで日本の大衆ははじめて拉致の事実を知り、世論はそちらのほうで沸騰してしまった。最初は拉致被害者がまず帰ってきて、子供がいる2組の夫婦は日本の状況を確認して、いったん北朝鮮に帰って子供たちを連れて日本に帰ってくるという話だった。ところが、当時官房副長官だった安倍晋三氏は、帰すとまた捕まってしまうから帰さないと主張し、「それでは平壌宣言の履行は第一歩からつまづく」と言う福田康夫官房長官と激論になったそうです。結局はいったん調印された平壌宣言は、有名無実化してしまった。拉致問題についても、国交を樹立して大使館を開き、援助漬けにしてパイプをつくり情報を取るほうが定石だった。


 1990年にロシアは韓国と国交樹立して、北朝鮮を見捨てた。92年に中国も韓国と国交樹立して北朝鮮を見捨てた。孤立無援の状態になって、北朝鮮は核をつくり始めたのです。北朝鮮の核については、ロシアと中国の責任も大きいですよ。核の傘がなくなってしまったわけなので、自分でやるしかなくなった。孤立によって経済も破綻していたので、日本に助けてほしく、核問題で譲歩してきた状態だったので、絶好のチャンスだったのです。「北朝鮮はそれでも密かに核開発を続けようとするだろう」と私も考えたが。IAEAの査察を受けていれば小規模な研究程度しかやれず、核実験をすれば日本の援助は滞るから、こちらは手綱を握ることができたはずです。平壌宣言が履行されていれば、今の状況はなかったのです」(同)


(構成=深笛義也/ライター)



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