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自動車、EVが世界の主流に…日産、EVの命・電池事業を中国系へ突如売却が波紋

  • 2017年 08月28日 06時36分
  • 提供元:Business Journal
日産・リーフ(「Wikipedia」より)

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日産・リーフ(「Wikipedia」より)

 世界的な環境規制の強化で電気自動車(EV)の本格的な普及が見込まれるなか、EVの普及を主導してきた日産自動車が異例の方針を打ち出した。EVの心臓部でもあるバッテリー事業を、中国系ファンドに売却することを決定したのだ。そこには日産会長であるカルロス・ゴーン氏流のしたたかな読みが見え隠れする。


「(バッテリー事業の売却は)日産にとってEVの競争力のさらなる強化にもつながる。日産は市場をリードするEVの開発と生産に専念することができる」(日産・西川廣人社長)


 日産が保有するバッテリー事業とバッテリー生産拠点を、中国系ファンドであるGSRキャピタルに売却することを決定した。業界では、この決定を不思議がる声が相次いでいる。


 量産型のEV専用車「リーフ」を世界で初めて市場投入した日産は、搭載するリチウムイオン電池の開発・生産体制を整えるため、NECと車載用電池の合弁会社オートモーティブエナジーサプライ(AESC)を2007年に設立した。出資比率は日産が51%、NECが49%で、AESCが製造するリチウムイオン電池がリーフなどに搭載されている。日産は9月にリーフをフルモデルチェンジする予定で、デザインを一新するほか、EV普及のネックでもある1回フル充電当たりの航続距離を伸ばして使い勝手を向上、販売を促進する方針だ。新型リーフにもAESC製のリチウムイオン電池が搭載される見通しだ。


 日産では早くからEVを環境戦略車の本命と見て開発を強化、EV専用モデルとなるリーフを10年にグローバルで市場投入。ルノーとの合計で16年度までにEVを累計150万台販売する計画だったが、実績では40万台超にとどまっている。


 EV普及のネックとなっているのが価格と航続距離だ。特に1回充電当たりの航続距離が、エアコンをオンにすると100km前後と短いことや、世界的には充電設備が整っていないことが大きい。そして、この航続距離を伸ばすためのキーとなるのが車載用電池だ。


 リーフが15年末のマイナーチェンジで航続距離を228kmから280kmに伸ばしたのも、サイズアップを抑えながらリチウムイオン電池の容量を増やしたからだ。つまりEVの販売を増やすためには、航続距離の延長が必要で、それを左右するのが車載用電池だ。


 一方、都市部での環境汚染が深刻化していることや、フォルクスワーゲン(VW)のディーゼル車の不正事件の影響もあって環境規制が強化されている。英国、フランスは40年以降、ガソリン車とディーゼル車の販売を禁止する方針を打ち出した。カリフォルニア州など米国の10州では、自動車メーカーに一定台数以上、EVやプラグインハイブリッド車(PHV)などの環境対応車の販売を義務付ける。中国やインドなどでも、自動車メーカーに電動車の販売を義務付ける政策が導入される見通しだ。


●EVシフト


 これらの動きから、世界の自動車各社はEVの開発を本格化している。VWは25年までに新型EVを30車種以上投入して新車販売の25%をEVにする計画を掲げる。ダイムラーは22年までにEVを10車種以上投入、同じく25年までにEVの販売比率を25%にする計画を打ち出している。大手自動車メーカーのなかで最もEVに否定的だったトヨタ自動車でさえ、16年末からEVの開発に乗り出さざるを得ないほど。


 EVシフトは鮮明で、EVに早くから注力してきた日産にとっては追い風となるはずだ。にもかかわらず、EVの航続距離を左右する重要なデバイスである車載用電池事業を売却するのはなぜか。


 ある自動車メーカーの役員は「リチウムイオン電池技術に関して、日産がNECを見限ったからでは」と指摘する。日産はNECが保有するAESCの株式49%を取得した後、GSRにAESCの株式100%を売却する。また、NECはリチウムイオン電池と正極材を開発・製造する子会社のNECエナジーデバイスをGSRに売却する方向で交渉しており、車載用リチウムイオン電池事業からは事実上、撤退する。


 日産は、NECの電池関連技術を活用して競争力の高い車載用電池を開発・生産することを目論んでいたが、「東芝やパナソニックなどのほうがリチウムイオン電池に関しての技術が進んでおり、あてが外れた」(同)というわけだ。


●コモディティ化


 日産が車載用電池事業を売却するもうひとつの大きな理由とみられるのが、電池を取り巻く状況の変化だ。


「EV市場の拡大を見越して中国の企業で車載用電池関連事業への参入が相次いでおり、日産のゴーン会長はリチウムイオン電池と関連部材が遠くない時期にコモディティ(汎用)化すると読んでいる」(自動車専門誌記者)


 実際、中国系新興企業のリチウムイオン電池関連部材への参入は相次いでおり、部材を生産するための投資が拡大している。AESCを買収するのも中国系のファンドだ。世界最大の自動車市場である中国では、環境規制の強化に伴って新興企業を含めてEVやリチウムイオン電池市場も急激に拡大することが予想されている。EVはガソリン車やディーゼル車と比べて部品点数が半分程度でできるため、参入障壁が低い。このため「車載用電池も家電製品と同様、価格が一気に下落する可能性がある」(自動車メーカー関係者)。


 日産としては、技術力で劣り、リチウムイオン電池関連部材の価格の下落によって設備の減損リスクのあるNECとの車載用電池合弁企業を抱え続けるよりも、低コストで高品質の電池を選択するほうが効率的と考えたとしても不思議ではない。


 日産の車載用電池事業のGSRへの売却額は非公表だが、1000億円以上とみられる。技術的な優位性が見込まれないNECとの合弁事業を穏便に解消すると同時に、EVが注目されている時期だけに「高額で事業を売却できるチャンスを逃さないところが、さすがゴーン氏」と評価する声もある。


 ただ、トヨタはパナソニック、ホンダや三菱自動車はGSユアサとそれぞれリチウムイオン電池の合弁事業を展開している。ダイムラーは約835億円を投資して、中国で北京汽車と車載用電池を生産する合弁工場を新設するなど、多くの自動車メーカーが車載用電池事業を「手の内」にとどめておく傾向が強い。自動車業界では異質に映る車載用電池事業を手放した日産の経営判断が吉とでるか、凶とでるのか、業界も注目している。
(文=河村靖史/ジャーナリスト)



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