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真っすぐなのに斜めに見える“不思議な文字列” その仕組みとは?

  • 2017年 10月12日 08時00分
  • 提供元:ITmedia NEWS
傾いて見える文字列(新井・新井、2005)

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傾いて見える文字列(新井・新井、2005)

 「十一月同窓会」と書かれた次の文字列ですが、傾いているように見えませんか? 


 実はこの文字列、真っすぐ平行に並んでいます。傾いて見えるのは目の錯覚、すなわち錯視です。信じられないという方は、定規や鉛筆など真っすぐなものを文字列に当ててみると、水平であることが確認できると思います。今回はこの傾いて見える文字列の錯視の謎に迫ります。


●連載:コンピュータで“錯視”の謎に迫る


あなたが今見ているものは、脳がだまされて見えているだけかも……。この連載では、数学やコンピュータの技術を使って目に錯覚を起こしたり、錯覚を取り除いたり──。テクノロジーでひもとく不思議な「錯視」の世界をご紹介します。


●日本発のクールな錯視


 これまで錯視図形は研究者やデザイナーなど、特定の人たちにより見いだされ、作られることがほとんどでした。しかし、傾いて見える文字列の錯視は、少し変わった来歴を持っています。


 事の発端は2005年頃、日本のネット掲示板などに傾いて見える文字列が次々に投稿されたことがきっかけでした。どなたが最初に始めたのか、筆者はその答えにたどり着けませんでしたが、当時は多数の傾いて見える文字列が日本のネット掲示板やブログを賑わせていました。


 通常、錯視は何かある特別な図形によって発生します。それに対し、傾いて見える文字列の錯視は、特定の図を作らなくてもPCのテキストエディタなどに文字を打ちながら見つけることができます。テキストゆえに、ネットを使ってすぐに発信、拡散することも可能です。傾いて見える文字列がネット上でブレークした理由は、こういった要因が理由の1つだと考えられます。


 さらに、なぜ海外ではなく日本で傾いて見える文字列が流行ったのか。それは、日本語が「平仮名」「片仮名」、そして「漢字」という多種多様な形の文字を有する言語だからです。ローマ字でも傾いて見える錯視文字列を作ることはできますが、文字の種類が少ないので簡単ではありません。例えば次のようなものが作れます。


 文字の種類が多い日本語だからこそ、さまざまなタイプの傾いて見える文字列を作り出すことが可能だったのです。実はこの他にもう1つ、傾いて見える文字列の錯視が日本で流行った要因があると考えています。それは日本語で使われる文字が1文字で発音できることです。


 例えば、上にあるローマ字の文字列が傾いて見える錯視の場合、いわゆる音読は(少なくとも私には)困難です。一方、次の錯視をご覧ください。


 「夏ワナー」も「学小年二生」も意味は不明ですが、ともかく容易に音読することはできます。しかも、その響きには何か独特の面白さがあるようにも感じられます。文字列傾斜錯視は日本発の日本語ならではのクールな錯視といえるでしょう。


●傾いて見える文字列の研究を始める


 傾いて見える文字列の錯視は、学術的には幾何(きか)学的錯視(geometrical illusion)の一種といえます。幾何学的錯視とは、実際の配置や大きさなどの幾何的属性とは異なって見える錯視のことです。例えば連載の第1回で紹介した「同心円が渦巻いて見える錯視」がその一例です。その他、幾何学的錯視には、平行なのに傾いて見える傾きの錯視もあり、古いものでは次に挙げるフレーザー錯視などがよく知られています。これは白と黒のねじれた4本のひもが、平行に並んでいるにもかかわらず傾いて見える錯視です。


 筆者はちょうど05年頃にこういった幾何学的錯視のメカニズムを解明しようと数学を使って研究していました。たまたまネットで知った「文字列が傾いて見える錯視」も非常に興味を引かれる対象であり、筆者と共同研究者の新井しのぶ(以下、新井・新井)は、早速その研究に着手しました。


 ちなみに、最初の研究レポートを05年にWeb上で公開したのですが、このレポートの中で、傾いて見える文字列の錯視を文字列傾斜錯視と呼んだところ、その呼称が今では広く使われるようになりました。


●実は奥の深い文字列傾斜錯視


 水平な文字列がなぜ傾いて見えるのでしょうか? よく言われている理由は、各文字の中の目立った水平線が、文字を配列したときに右下がりあるいは右上がりに並んでいることが原因である」ということです。


 これを水平線説と呼ぶことにします。確かにこれだと文字列が傾いて見えることは多いでしょう。しかし、これだけをもって原因とするのは十分ではないと考えています。これを示すため、新井・新井は次のような文字列傾斜錯視を作りました。


 この文字列には、見ようによってはいろいろな横線の並びをピックアップすることができ、水平線説だけでは十分な説明をすることができません。このような文字列傾斜錯視は他にも作ることができます。


 それでは文字列が傾いて見えるメカニズムとは一体何なのでしょう?


●コンピュータと数学で文字列傾斜錯視の謎に迫る


 脳の中には視覚に関連するさまざまなタイプの神経細胞があり、それらが多様な役割を果たしています。例えば、外界の情景の中に線状のものが含まれている場合、それがどのくらい細かく、そしてどの方向を向いているのかを識別する神経細胞があります。09年に新井・新井はその仕組みを数式で表した新しい数理モデルを作り、コンピュータに実装しました。


 そして文字列傾斜錯視の画像を入力し、まずはどのようなことが起きるのかを詳しく調べました。その結果の1つが次の図です。なお図では、分かり易いように神経細胞の数理モデルの一部のみを、(A) のように並べてあります。「夏ワナー」の文字を入力したときの (A) の神経細胞の数理モデルの反応が (B) です。強い反応は赤く表示しています。


●文字列傾斜錯視の要因を探る


 次にすべき作業は、どの神経細胞の数理モデルの活動が錯視の要因になっているのかを突き止めることです。このため、赤い色で表示された反応を抑制または停止させていきました。その結果、(A)については、ほぼ中央列付近のとある範囲に並んでいる神経細胞の数理モデルの活動を抑えると、コンピュータが文字の原型を留めつつも錯視の消滅(あるいは激減)した画像を出力することが分かりました。結果は次のものです。


 さらに夏ワナーの錯視とほぼ同じ方法で、他のいろいろな文字列傾斜錯視の錯視を取り除くこともできました。例えば「十一月同窓会」「学小年二生」の錯視の場合には次のようになります。


 つまり、数理モデル上の話ですが、多くの文字列傾斜錯視に対して、その錯視を引き起こしている共通の神経細胞があったのです。


 後に新井・新井はこの研究をさらに発展させて、「幾何学的錯視の構造解析法」という錯視の新しい解析方法を考案しました。第2回で紹介したフラクタル螺旋(らせん)錯視の錯視除去と強化はその成果の1つです。


●文字列傾斜錯視自動生成プログラムへの発展


 さて、新井・新井はこういった文字列傾斜錯視の数理的な研究を続け、文字列傾斜錯視自動生成プログラムを作りました。これは、n文字の文字列と、n以下の文字数mを指定すると、与えたn文字の中からm文字の文字列傾斜錯視を自動的に作れるというものです。


 例えば、「一二三四五六七八九十」の10文字と、文字数として6を入力すると、この10文字の中から6文字を使った傾いて見える文字列を出力します。(表示されたもの以外にも文字列傾斜錯視が起きるものはありますが、その中でも比較的錯視量の多いものを出力するようにしてあります)


 ただし、文字列の中にはどのように文字の配列を選んでも傾いて見えない場合もあります。例えば「あああああああ」は、いくら配列を変えても傾きの錯視にはなりません。


 このソフトは10月末まで期間限定でデモ版を公開してありますので、詳しくは「文字列傾斜錯視自動生成ソフト -デモ版-」をご覧ください。

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