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もはや世界遺産?名古屋喫茶店文化の正体…朝から晩までボリューミーなモーニング付き

  • 2017年 10月13日 06時35分
  • 提供元:Business Journal
レモンスカッシュ

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レモンスカッシュ

「県民食(ケンミンショク)」とは、その地方ならではのソウルフードのことである。他府県からやってきた部外者からすると、意表を突かれるスタイルに衝撃を受けつつ、一旦その味の虜になると癖になる不思議な世界である。


 これまでご縁がなかったのだが、昨年あたりからちょくちょく名古屋にお邪魔する機会が増えた。そこで、仕事の空き時間や打ち合わせで、噂に聞く名古屋の喫茶店を体験したのである。上の写真は、衝撃を受けた初体験のお店である。2016年8月、最初に訪れた名古屋スタイルの喫茶店が「ホワイトベア」さん。その名の通り、等身大のシロクマのはく製がお出迎え。見た目のインパクトも絶大であった。


 訪れたのが昼食も済ませた午後3時頃だったので、レトロな喫茶店にあわせてレモンスカッシュを注文してみた。すると「モーニングつけますか」と店員に聞かれた。「午後3時にモーニング?」と思ったが、俄然興味がわいて「お願いします」とセットをつけてみた。5分後に出てきたプレートの上には、レモンスカッシュにサラダ、ジャムトースト、さらに太巻き寿司2つ。「これはレモンスカッシュ定食か?」と言いたくなるボリューミーなセットメニューが出てきた。


 地元の名古屋人にとっては、これが当たり前らしいことを知る。コーヒーはもちろん、希望をすればソフトドリンクにもこのようなセットが無料サービスでついてくる。ちなみにホワイトベアでは、朝から晩までモーニングセットがつけられる。もはや、モーニングですらない。


 私にはケンミン食の記憶がある。小学5年生の時に家族旅行で訪れた香川、その製麺所の軒先で食べた讃岐うどんはとにかく麺が主役で、麺だけが盛られた状態で器を受け取る。そこにかける出汁も、具も、ネギも、適当に自分でやってねというセルフサービススタイル。ただし麺だけは、とにかく気合いと自信に溢れていた。


 社会人になって初体験した博多のラーメン店「一蘭」。食べる前に記入するオーダー用のアンケート、おしゃべりを許さない間仕切り付き個食テーブル。そして、「替え玉」。いずれも、おいしさと同時に「独特」のサービスを含めたスタイルに驚いた。それらに匹敵する名古屋の喫茶店。以降、機会があるたびに名古屋の喫茶店を探査している。


●鉄板小倉トースト、焼きそば定食…


 お次のお店は、名古屋なのに「喫茶 神戸館」という、ガラス張りの外観が特徴の有名店。5階建ての1階が喫茶店で、5階の宴会場は結婚式の二次会でよく使われ、名古屋の人には馴染みのお店らしい。


 そんな神戸館のイチオシが、「鉄板小倉トーストwithとろけるきなこ」である。これも名古屋の喫茶店の特徴なのか。鉄板好きである。こだわりのコーヒーシロップをかけると、期待通り「ジュワー」と音がする。さらに、同じく名古屋で生まれた「とろけるきなこ」がかけ放題だ。


 そして、神戸館のランチメニューでカレーやパスタに並び存在感を放つのが「焼きそば定食」である。これまた鉄板に、ライスに合う濃い目のソース味の焼きそばが盛られ、目玉焼きがのっている。これに赤だしの味噌汁がついてくる。
喫茶店に「焼きそば定食」は名古屋では当たり前だそう。


 東京でも名古屋の喫茶店文化を味わいたいというニーズに応えてくれるのが、「コメダ珈琲店」だ。名物は「シロノワール」。熱いデニッシュパンの上にたっぷりソフトクリームがのっており、熱々冷々を楽しめるところが、いかにも名古屋メシらしい。いまや、全国で店舗数は700店を超えている。名古屋の喫茶店に共通する前述の「モーニング」。先ほどのように、飲み物にトーストやサラダ、卵料理がついてくる。


 コメダ珈琲店では、トースト+A「定番ゆで玉子」、B「手作りたまごペースト」、C「名古屋名物おぐらあん」の3種類から選べる。提供時間は開店から朝11時まで。さすがに全国チェーンだけあって、かなり洗練された感じである。ホワイトベアのようにお寿司やおにぎりはついてこない。


 メニューだけではない。店内にはスポーツ新聞や雑誌が豊富に揃えられ、席はソファでゆったりくつろぎ系。ビジネス書や絵本などが充実している店もある。長居を前提にしていることも、名古屋の喫茶店のサービスの特徴だ。それと、コーヒーチケットと呼ばれる9枚綴りの回数券を使う常連さんも多い。


●“軽食堂”


 名古屋スタイルの喫茶店文化を語る際に、もうひとつ欠かせないことがある。それは店と顧客との関係だ。名古屋の喫茶店は、朝、昼、午後、夕方、夜と、いつ訪れてもさまざまな客層で店が賑わっている。ビジネス層だけでなく、近所のおじさんやおばさんの友人グループ、老夫婦、小さな子供のいる家族連れなど、とにかく客層が広いので、時間帯に偏りがなく集客ができている。


 そして皆、ただ「お茶をする」「時間を潰す」のではなく、何かを食べながらおしゃべりや読書を楽しんでいるのである。良くも悪くも雑多で気軽な空間である。私から見れば名古屋の喫茶店は、お茶をするためのカフェというより、コンパクトながら食事、間食、お茶を楽しむ“軽食堂”なのである。


 ケンミン食文化、それが名古屋でも香川でも博多でも皆共通しているのは、必ず食材や調味・調理方法、メニュー、サービスなどに、シンプルで際立つ特徴があるという点だ。それは地元県民にとって「こうでなければならない」「こうあるべし」という掟(おきて)のようなものだろうし、外から見れば奇妙にさえ映る「独特」の世界だ。しかも、その「独特」が、街の風景の中に溶け込み、すっかり染み込んでいる。つまり、「独特」と「お馴染み」が時間をかけて共存しているのが、優れたケンミン食なのだ。


 最近、あるテレビ番組で讃岐うどんを冠にする「丸亀製麺」が、実は兵庫発の焼き鳥チェーンだった件が紹介され、ネットでは「そうだったのか」「本物ではない?」などと物議を醸したらしい。私に言わせてもらえば、出自がどうであろうと「独特」をしっかりと踏襲し、それぞれの街の中で「お馴染み」をつくることができるかが勝負なのではないかと思う。


 複数のカフェやレストランを経営している外食チェーンの社長さんにお話を聞いたときに、「最終的な目標は、1店舗1店舗がその街の風景になること、その街の人たちにとって、なくてはならない店になることだ」とおっしゃっていたことを思い出す。そういう1店1店の集積が、ケンミン食文化をつくっているのだろう。
(文=山田まさる/インテグレートCOO、コムデックス代表取締役社長)



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