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あんぱん有名な木村屋総本店、袋パン事業が「捨てる経営」でV字回復

  • 2018年 01月13日 00時50分
  • 提供元:Business Journal
新製品ブリオッシュ風クリームパン

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新製品ブリオッシュ風クリームパン

 明治の初めに創業した老舗、木村屋総本店副社長の福永暢彦氏は、外部から送り込まれた経営者だ。従来のやり方に慣れ親しんだ社員たちや業界慣習と向かい合い、この老舗を見事によみがえらせた。回復フェーズを通過し、成長フェーズをうかがう福永氏に、これまでの苦闘とこれからの展望、戦略を聞いた。


●木村屋総本店の売上構成の中心は袋パンだった


――木村屋といえば、あんぱんで知られています。


福永暢彦氏(以下、福永) 木村屋というと東京・銀座4丁目にある、あんぱんで有名な銀座木村が知られていますが、木村屋総本店と同じルーツの別の法人であり、事業内容や主力の商品なども異なっています。


――そうなんですか? でも貴社でもあんぱんを扱っています。


福永 木村屋総本店のスーパー・コンビニエンスストア向けの事業では、袋パン向けに独自に開発設計したあんぱんを、埼玉と千葉にある工場で製造しています。当然、あんぱんの老舗をルーツとする企業として、こだわりの生地とこだわりの餡を使用した、大手メーカーとは差別化した袋パンのあんぱんです。


――現在の事業構成をご説明いただけますか。


福永 木村屋総本店には、デパートなどで伝統的なあんぱんを中心に販売している「直営店事業」と、袋パンを製造・販売している「スーパー・コンビニ向け事業」に大きく分かれており、後者が売上全体の80%を占めています。


――福永さんは木村屋総本店には外部から5年ほど前に着任なさったのですね。外から来てみてパン業界の難しさは、どのようなところでしょうか。


福永 一番の特徴は日配(にっぱい)業だということですね。前日までに受注した一定のボリュームを、翌日の決められた時間までにはスーパーやコンビニの店舗に届けなければなりません。物流は時間がタイトで待ったなしの状態であり、受注から納品までのリードタイムが短く生産計画がとても立てにくい状況にあります。


 袋パンの場合、消費者が製造メーカーを認識しづらいほど類似品が溢れかえっていて、パンメーカーは数が多いので競争が激甚です。近年、コンビニ向けにはパン専業ではない食品メーカーがパンを提供したりして、新規プレーヤーの参入も続いています。もうひとつ特徴を挙げると、小売りの力がとても強い、言い換えると、メーカーサイドの提案力がとても弱いということです。


――メーカーとしての特徴を出しにくい構造ですね。


福永 そんななかでなんとか当社の強み・こだわりを打ち出したい、と苦闘してきました。


●既成概念を破って改善してきた


――福永さんが就任してからの業績はどのように変化、改善してきたのですか。


福永 袋パン業界のマーケットや事業構造からして、今までのやり方を変えなければ利益を出すことはできないと、強く感じました。一方で、これまでの長い歴史の中で培われたすでにある強みや、大手メーカーにない特徴にトコトンこだわれば、これはいけると感じました。


――どんな分野で改善を図ったのですか。


福永 取扱いアイテムを約4割削減し、お取引いただく小売チェーンも半分近くにまで絞り込みました。その結果、日配の物流コースを2割ほど削減することにもつながっています。これらの絞り込みは、計画生産に近づける上でも、生産性や物流効率を改善する上でも、大きなインパクトがありました。


――いろいろ絞ったわけですね。


福永 いわゆる「選択と集中」を行いました。お取引いただくチェーンは当社にとって顧客ですが、当社が一定の販売ボリュームと利益を確保できないところを中心に絞り込みました。アイテムを絞り込むにあたっても、利益率は大きな要素です。加えて、当社の新たな強み・こだわりにマッチしないアイテムも絞り込みました。


――ABC分析による絞り込みはよく叫ばれるところですが、それをパレート図として描出することが実際には難しいところがあります。


福永 そのとおりです。顧客別にせよ、アイテム別にせよ、実際には共通経費をどう個別に振り分けるか、その方式を決めるのに苦労しました。なかでも、製品設計から製造、そして売上が計上されるまでのプロセスを具体的に理解することに苦労しました。


――しかし、その苦労に対する果実は大きかった、と。


福永 アイテム数も、取引いただく小売のチェーンの数も絞り込んだので年商は一時的には減少しましたが、現状ではほぼ横ばい近くまで回復しています。一方、利益のほうは私の着任前にはスーパー・コンビニ向け事業で数億円あった営業赤字が、2期目には黒字になりました。


――木村屋のように伝統のある会社では難しい改革を積み上げて、いわゆるV字回復を達成なさったのですね。


福永 社員に愛着があるが、強み・こだわりが希薄で利益も確保できていないアイテムを絞り込むには労力を要しました。一方、捨てるだけでは縮小するだけで未来がなくなってしまいますので、「育てる」ことにも注力してきました。


――どんな分野ですか?


福永 薄利多売の日配ビジネスであるスーパー・コンビニ向け事業は、計画生産がとても難しいビジネスです。しかし難しい条件、つまり与件のなかでも自分たちの行動を変えることで、100点は難しいが可能な限りの計画生産にチャレンジしてきました。


――具体的には?


福永 大手チェーンでの特売セールでは造個数が大幅に増えます。日常の受注とのふり幅が大きくなるほど、実は製造コストが大きくなり損失が膨らみます。私の着任初期にとあるスーパーさんのチラシに載せれば売上が何百万円になる、という受注を社員が取ってきたときにお断りさせたこともあります。そのやり方は旧来の社員たちにはなじめないところもあったようです。「利益につながる売上」という意識を持ってもらうことに腐心しました。


――私も再生経営者として見知らぬ会社に着任した時に、いつも社員の意識を変えることに苦労しました。


福永 各チェーンからの袋パンの注文は最終的には前日までに来るのですが、それにしても過去のトレンドを見たり、それぞれのスーパーさんとしっかりお話ししていれば、どの程度の受注が来るのかはある程度わかるでしょう、と言ってきました。あとは、その見込みに対して人員を配置したり、生産計画を立てたりしてもらうわけです。「100点は無理だけど計画生産にチャレンジしよう」と旗を振ってきました。


 当社の取引先の大口はスーパーとコンビニです。スーパーさんのチラシに当社の袋パンが載ると、多くの注文が入ります。嬉しいことなのですが、それが予測できていなければ、生産対応できない。セールスチャンス・ロスとなったり「利益なき繁忙」として生産しなければなりません。


 具体的に見ていくと、お取引先であるスーパーさんの販売パターンが見えてきます。販売パターンがわかったことで当方も対応の仕方が見えてきました。個別のスーパーの状況だけでなくスーパー・コンビニ向け事業全体として予測して、計画生産につなげる仕組みが徐々にではありますが出来上がってきました。


――パンの種類は減らしただけなのですか。


福永 いいえ、減らしたアイテムと増やしたアイテムがあります。増やした、というのは当然新製品の開発になりますが、以前のように漠然と商品を出すのではなく、「強み・こだわり」が詰まった「利益が出るパンの開発」というテーマで取組んできています。「利益が出るパンの開発」とは、決して原材料費を抑制することではなく、原材料の廃棄抑制、生産性の向上、定番化することでの計画生産度合の向上など、製造・販売の起点としての重責を果たせる製品開発にチャレンジしています。


 オペレーションの改善という点では、計画生産と開発の方向性の具体化、この2点が大きな改革だったと思います。生産量のふり幅を少なくするというのは結構難易度の高いチャレンジだったと思います。


――そのほかには?


福永 計画生産の度合が低いことなどから、残業も多く発生していましたが、全体として大きく改善してきました。また、以前はゼロであった女性管理職が4名、毎日重責を果たしてくれています。


●インストアベーカリーと大手パンメーカーの間で、独自のポジションを確立して成長していく


――日本の袋パンメーカーのなかで、木村屋総本店はどんな位置取りになっているのですか。


福永 まず、年商が1兆円を超えるガリバーのような存在が山崎製パングループです。続いてフジパングループ、パスコグループが2000億円以上の年商規模です。


――2位からいきなり桁違い、年商規模が下がっているわけですね。


福永 はい。そして年商200億円を超える規模の袋パンメーカーが数社あり、木村屋総本店のスーパー・コンビニ向け事業の年商はもう少し規模の小さいところに位置しています。


――いわゆる街のパン屋さんはそれこそたくさんありますね。


福永 店内でパンを焼いている業態は「インストアベーカリー」と呼ばれています。これらは製造した焼きたてパンを直接消費者に販売しているわけです。我々のスーパー・コンビニ向け事業は、大手パンメーカーほどに機械化されていませんし、インストアベーカリーのように手づくり度が高いわけでもない、という中間的なポジショニングです。


――中間的なポジショニングのメリットとデメリットはなんですか?


福永 当社も含めて、中間に位置するパンメーカーの悩みは、なんといっても大手との競合にさらされていることです。大手の強みには実は物流網もあり、パンメーカーにとっての物流費の割合の高さからは、とても効率の面で勝負になりません。


 また、大手と同じようなパンの製造に走ってしまうと、大手が製造する効率のよさにこれもかないません。中堅メーカーは特色あるパンを開発し続けないと生き残ることが難しい業界です。製造において大手よりも一手間と時間を余分にかけたつくり方をすることで、大手と差別化したカスタマイズ度合の高い、そしておいしい袋パンをつくれることが当社の強みです。我々はこの中間的なポジショニングを「中量生産」と定義して、木村屋総本店の袋パンの開発・製造の強みとしていきたいと取組んでおります。
(文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント)



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