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ヤマト、経営陣の英断で増益…「物流なくしてアマゾンらネット企業の成長なし」を立証

  • 2018年 05月16日 19時50分
  • 提供元:Business Journal
ヤマト運輸の配送車両(「Wikipedia」より)

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ヤマト運輸の配送車両(「Wikipedia」より)

 多くの経営者が頭を抱える問題がある。それは人手不足だ。サービス業を中心に必要な人手が確保できず、倒産を余儀なくされる中小企業は増加傾向にある。正社員の給与水準とは対照的に、パート・アルバイトなどの平均時給は増加している。それでも十分な人手確保は難しいケースが多い。企業経営にとって、人手不足問題が深刻化するなかで業績を拡大させることは悩ましい課題だ。


 宅配便最大手のヤマトホールディングス(ヤマト)は、そうした問題に宅配単価の引き上げで対処している。それによって、足許の業績拡大がもたらされている。需要が変わらないと考えられる場合、供給価格を引き上げ、収益の増大を目指す判断は合理的といえる。ただ、長らくわが国の需要が低迷してきた分、その決断は簡単ではなかっただろう。その意思決定はまさに、頭ではわかっていても、なかなかできるものではない。その経営判断の重要なポイントを考察する。


●需要抑制策で生産性向上をめざすヤマト


 ヤマトが発表した第3四半期決算では、前年同期比ベースで取り扱う宅急便数が4.5%減少した。一方、単価は11.6%上昇した。これは、昨年10月に実施した単価の引き上げと、法人顧客に出荷の調整や再配達の削減などを要請したことの成果である。それは、ヤマト経営陣の英断によってもたらされたものといえるだろう。


 英断と評価すべき一つ目の理由は、同社が需要の抑制に踏み込むことで、生産性の向上に向けた明確なコミットメントを示したことだ。取り扱う荷物の数が減っても単価が上昇しないのであれば、従業員一人あたりが生み出す収益(生産性)は高まらない。その状況が続くと、企業の経営基盤を強化することは難しくなるだろう。


 2017年までの10年間でヤマトの宅急便数は60%増加し、18.7億個に達した。その背景には、アマゾンを筆頭に、店舗に行かずとも欲しいモノやサービスの入手を可能とするテクノロジーが社会に浸透してきたことが大きい。宅急便の数量が増加する一方、ヤマトは単価を維持し、再配達などのサービス内容も保ってきた。その背景には、料金を上げずにより良いサービスを提供することが自社の使命という理念・経営哲学があったはずだ。インターネット経由での取引が増加し荷物が増加=物流への需要が拡大する一方、同社はパートタイマーの時給引き上げなどを通して人手不足の問題が顕在化することを回避しようとしてきた。


 ただ、その対応にも限界がある。人手の確保が難しいなかで需要の取りこぼしを防ごうとすればするほど、現場は疲弊する。そうなれば、労働環境の悪化から従業員の士気は下がり、組織運営にも問題が生じるだろう。


 昨年10月、ヤマトが27年ぶりに宅急便料金を引き上げたことは、組織全体の消耗を防ぐためだったといえる。同時に、社会の変化に対応してビジネスの内容を検討し、持続性の高いサービスを提供するためにも、単価の引き上げは不可避であり不可欠だった。


●物流業界は最も重要な成長産業である


 もう一つ、ヤマトの経営陣の単価引き上げを英断と評価する理由がある。それは、物流というビジネスが今後の発展に不可欠であることを、社会に示したことだろう。


 当たり前の話ではあるが、多くの人が躊躇することなく「欲しい!」と思ってしまうモノやサービスがあれば、供給価格を引き上げることへの抵抗感は少ないはずだ。それを手に入れたいという欲求が、価格の上昇に対する抵抗感を上回るということである。


 第3四半期のヤマトの決算を見ると、この構図がはっきりと表れている。単価の引き上げにもかかわらず、同社は増収増益を達成した。今後も同社が需要を集め成長を維持するとの見方も多い。


 年初来、国内の株式市場が円高などを受けて軟調に推移する一方、ヤマトの株価は23%程度上昇している。これは、ネット社会の深化とともに物流への需要が高まり、生産性の引き上げにコミットする企業の成長が高まるとの見方を反映している。マーケットは、ヤマトを成長企業として認識しているといえる。もし単価の引き上げが見送られていたのであれば、市場参加者の見方が上向くことはなかったかもしれない。同時に、ヤマトの料金引き上げは、アマゾンなどのプラットフォーマー企業に対して物流業界の価格交渉力があることを示す機会にもなった。


 言い換えれば、物流なくしてネット社会の発展はありえないということだ。アマゾンが目指すものは物流革命と考えられる。ネット上でモノの購入契約を締結し、代金を決済することはできる。しかし、それだけではモノを必要な場所に届け、実際に使うことはできない。ネット社会の発展は物流ネットワークの強化と不可分だ。それがわかっているから、アマゾンはヤマトの値上げを受けて自前での宅配サービスを強化している。


 このように考えると、ヤマトが単価の引き上げに続きどのような経営の革新、イノベーションを進めるのか、目が離せない。さまざまな問題はあるが、同社がドロップボックスの設置だけでなく、自動運転車両やドローンを用いた物流テクノロジーの開発を加速させるのであれば、業界他社にもかなりの影響があるだろう。
 
●適正な価格設定の重要性


 一般的に、企業の経営者は、需要は取り込めるだけ取り込みたいだろう。そうすれば、少なくとも当面は収益を増加させ、成長を維持することができる。多くの経営者にとって、それが偽らざる本音であるはずだ。多少、現場に影響が及んだとしても、現場の創意工夫が問題を解決することを期待して、需要取り込みを優先しようとする考えが高まることは、ある意味、仕方がないようにも思える。


 一方、1990年代初頭に株式と不動産のバブルが崩壊して以降、わが国ではデフレ経済が深刻化し、景気が低迷した。デフレは、需要低迷の裏返しだ。その分、価格を据え置き、消費者の支持が離れることを防ごうとする経営者の心理は強くなりやすかった。同時に、価格は維持しつつ、製品やサービスの質を高め、さらなる満足度を提供しようとする発想もあったはずだ。


 海外の投資家からみた場合、こうした発想は“過剰”に見えることが多い。かつて、ある米国の知人アナリストは、「ヤマトはフリー(ただ)で再配達を行っている。再配達を行う分、ドライバーの作業は増える。相応の対価を求めるべきだ。それがないのであれば、同社のサービスは過剰だ」と指摘していた。


 昨年の料金引き上げは、そうした発想が増える契機となった。重要なことは、人々から必要とされるビジネスは、価格が引き上げられても競争力を失う可能性が低いということだ。価格を引き上げることができれば、収益は増加する。それが企業の成長に欠かせない。価格を引き上げた結果、消費者の支持を失う企業は競争力を低下させる。それが価格原理に基づく資源の効率的な再配分を支える。


 ヤマトの事例を見ると、サービスの競争力、他社との差別要因を見極めたうえで、単価を引き上げることの意義は大きい。価格を引き上げた上で、サービスの利便性が高まるのであれば、人々はその企業の経営を支持するだろう。そうした取り組みがわが国全体で増えれば、景気回復への実感も高まるはずだ。イノベーションを進め、より良いモノ・サービスを、従来を上回る価格で提供しようとする経営が求められる。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)



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