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失業率から漏れた「働けない人=ミッシングワーカー」、103万人の悲惨な実態

  • 2018年 06月15日 00時05分
  • 提供元:Business Journal
「Getty Images」より

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「Getty Images」より

 総務省の労働力調査によれば、今年4月の完全失業率は2.5%。リーマンショック直後の2009年7月に記録した5.5%と比べて半分以下になった。完全失業者数も、この間、364万人から180万人へと激減している。


 一人当たりの求人数を表す有効求人倍率も昨年から常時1.5倍を超えていることからすれば、国内の雇用情勢は空前の活況を呈していることになる。


 そんななか、6月2日に放映されたテレビ番組『NHKスペシャル ミッシングワーカー 働くことをあきらめて…』が大きな話題を呼んだ。


 親の介護や転職をきっかけに心身を病み、長期間働けない状況に陥ってしまった労働者にスポットを当てたドキュメンタリーだ。同番組によれば、求職活動をしていないため雇用統計上の「失業者」に反映されない状態=ミッシングワーカーは、103万人にも上るという。


 そのような人たちを統計に含めれば、実際の失業率はもっと大きな数値となるはずで、我々の生活実感にも近づく。ミッシングワーカーの実態は、わが国におけるセーフティーネットの脆弱さを、改めて浮き彫りにしたといえる。


 今回は、2017年12月27日付本連載記事『雇用保険、給付金を大幅削減で積立金6兆円に膨張…失業者にカネを払わない日本の失業保険』に続いて、日本のセーフティーネットについて考えてみたい。


●雇用保険を受給できず、生活保護でかろうじて生活


 筆者が1年ほど前から継続して相談にのっていたKさん(30代男性)から、このようなメールを受け取った。


「社会福祉協議会へ生活福祉資金貸付の相談に行きましたが、『要件に該当しない』との理由で駄目でした。なるべく生活保護は受けないようにしたいと考えていますが、この状態が続くとやむを得ないことになると思います」


 会社都合で警備会社を退職した彼は、とりあえず90日分の失業手当を受給できるうえ、かなり熱心に求職活動に励んでいたため、個別延長給付60日も適用になる見込みで「それまでには決まるはず」と、筆者はタカをくくっていた。


 ところが、またたく間に3カ月が経過し、見込み通り個別延長が適用になったものの、5カ月経過しても、なお就職は決まらなかった。光熱費の支払いが滞るなど、生活費のデッドラインがヒタヒタと迫っていた。


 意を決して市役所福祉課に相談に出向いたものの、初回は制度の説明されただけ。何度か足を運び、ようやく生活保護の申請ができたのは2週間後。このとき市から緊急貸与を受けた2万円は、近日中に送電を停止すると通告されていた電力会社への支払いに消えたという。


 さらに申請から3週間後、役所の担当者が自宅を訪問調査のうえ、わずかな年金で生活している母親との世帯全体の窮状をみて、生活保護の支給が決定した。


 その直後に就職が決まったが、最初の給与が出るまでの2カ月間は支援が必要との判断から保護は継続されることになり、危機一髪のところでKさんは生活破綻を免れた。


●2カ月ごとに契約更新のアルバイト


「契約期間は2カ月ですから、更新回数は18カ月で9回だと思います」


 雇用保険に加入したいというYさん(20代男性)の相談メールからは、勤務先の悪質な“社保逃れ”の実態が浮かび上がってきた。わざと契約期間を短くして、社会保険に加入しなくても済むよう巧妙に工作されていたのだ。


「社員登用制度あり」との文句に魅力を感じ、Yさんが大手家電量販店にアルバイトとして入社したのが1年半前。1日11時間拘束の10時間勤務(2年めからは1日9時間拘束の8時間勤務)にもかかわらず、契約書では始業・終業時間が「予めシフトに定められた通り」と記されているだけで、所定労働時間・日数の記載は一切ない。


 勤務日数もほぼ正社員と同じなのに、短期アルバイトと同じ扱いをされて、健康保険、厚生年金はもちろん、週20時間以上のアルバイトならだれでも加入できるはずの雇用保険にすら加入手続きがされていなかった。


 そんななかでも「正社員になれるなら」と、将来に望みを抱いてがんばってきたYさんだが、正社員登用の声はいつまでたってもかからなかった。


 ある日、よかれと思ってしたことをサボっていると勘違いした上司から「お前は、やめさせるリストに入れたから」と言われてしまった。その精神的ショックが引き金となり、Yさんは慢性的な不眠症と食欲不振に悩まされることになった。そして半年後、通勤途中に倒れて、雇用保険なしのまま退職を余儀なくされた。


 ちなみに、筆者が本人に代わって労働局へ大手家電量販店の違法事実を通報したところ、「本人からの実名告発でないと指導できない」と、担当官は調査することを拒否した。


●ニートが長く、社会生活を始められない


 東北地方に住むTさん(25歳女性)は最近、一念発起して就職活動を始めることにした。


 学生時代から社会不安障害を抱えていたため、卒業後は就職せずに実家でニート生活。ときどきアルバイトはしていたものの、責任のある仕事を任された経験がなく、やりがいや達成感を得る機会がないまま時間だけが経過していくことに対して、次第に焦りを感じるようになったと言う。


「このままでは将来になんの希望も見いだせない」と感じて再スタートを切ろうとしたが、実際にハローワーク(以下、ハロワ)に通ってみると、難しさばかりが先立ってしまう。


「応募の条件として『社会人経験があること』が挙げられていたり、応募にあたってハロワの紹介状のほかに職務経歴書も書かないといけないみたいなのですが、アルバイトの経験しかなく、どう書けばいいのでしょうか」と、Tさんは悩んでいる。


 そんな彼女がもうひとつ気になっているのが、職業訓練だ。興味があったDTP(机上出版)やウェブデザインのコースを受講したいとの希望を持っていて、実際にスクールの見学にも出かけたが、情報を集めているうちに、「本当に就職できるのか?」などの不安が頭をもたげてきて、なかなか一歩を踏み出すことができない。


 雇用保険に加入できるほど働いていない現状では、実家暮らしとはいえ、無収入のまま訓練期間を過ごさざるを得ない。一緒に暮らしている父親は、もうすぐ定年を迎えるとのことで、いつまでも親に甘えてばかりもいられないという、焦る気持ちばかりが先立つ。


●雇用保険と生活保護の中間のセーフティーネット


 これらは、拙著『求職者支援制度150%トコトン活用術』(同文館出版)の冒頭で紹介した事例からの抜粋である。


 非正規雇用が激増した結果、彼らのように、政府が発表する完全失業率にカウントされないミッシングワーカーも急増しているとみられている。


 冒頭のKさんにしても、就職内定した瞬間に求職者でなくなる。希望条件とはほど遠い非正規雇用でなんとか食いつないでいる期間は、失業者にはカウントされない。


『雇用保険、給付金を大幅削減~』記事でも述べたように、日本では失業したときのセーフティーネットの網からこぼれ落ちる人が少なくなく、雇用保険ですらつい数年前まで「短期契約の非正規は対象外」として、加入手続きが取られないケースが多かった。


 また、雇用保険を受給できたとしても、どんなに勤務先がブラックでも、退職願を出した瞬間に退職理由は「自己都合」となるため、最長でも150日、10年未満勤務の人は90日分しか受給できない。


 そこで注目したいのが、雇用保険を受給できない人を対象としたセーフティーネットだ。


 08年に発生したリーマンショックのとき、雇用保険と生活保護の中間に位置する新たなセーフティーネット構築の必要性が叫ばれた。雇用保険の受給資格のない人向けに訓練奨励金付きの「基金訓練」が期間限定の暫定措置としてスタート。この制度の仕組みをそのまま受け継いで、11年10月に恒久制度として発足したのが「求職者支援制度」というセーフティーネットである。


 この制度の最大の目玉は、雇用保険を受給できない人は、指定の訓練を受講すれば月10万円の手当がもらえる「職業訓練受講給付金」だ。


 この受講給付金をもらえるのは、「すべての訓練に出席する」ことが要件。やむをえない事情があった場合には、その日を除いて8割以上出席(やむをえない事実を証明する書類を提出必須)しないと、給付金は1円も支給されない(14年度からは、2分の1日出席も出席率に換算可となるなど、運用が一部緩和された)。


 また、職業訓練受講給付金は国が指定した訓練コースを受講さえすれば誰でももらえるわけではない。「本人収入月8万円以下」「世帯収入月25万円以下」「世帯全体の保有金融資産300万円以下」など、基本的な支給要件をクリアする必要がある。


 安易に給付金をあてにして支援訓練を受けようとするのは禁物だが、雇用保険の受給資格の獲得が困難だったり、雇用保険を受給満了しても就職が決まらなかったような非常事態には、大いに使えるのがセーフティーネットである。


 なお、発足時にはなかった「通所手当」(定期代相当)や、家族と別居して寄宿する場合の「寄宿手当」(月額1万700円)も追加されている。


 求職者支援制度のもとで実施されている支援訓練のコース(3~6カ月)は、介護福祉をはじめIT関係、医療事務、経理事務、営業販売、ビルメンテナンスなど、非常に多岐にわたる。社会人としての基礎能力を養う「基礎コース」(2~4カ月)を先に受講することも可能だ。


 いずれも民間専門学校が実施するもので、雇用保険受給者向けの委託訓練と重なるものも多い。厚生労働省によれば、17年度の1年間に1896コースが実施され、1万1000人が受講。受講者の就職率は全体で65.1%だった。


 だが、残念ながら、国の広報が十分でないためなのか、受講者は年々減少の傾向にある。発足した11年度に5万人いた受講生は、15年度には1万9000人と、ピーク時の4割を下回っている。


「短期の訓練コースを受講しても、そう簡単に就職できるわけがない」との批判は、雇用保険受給者向けの公共職業訓練でも昔から根強くいわれるが、その認識は根本的に間違っている。


 なぜならば、失業した人がとりあえず、毎朝起きて出掛ける場所ができ、そこには共通の目標に向かって進もうとする「仲間」がいるというだけでも、生活改善効果には天と地ほどの差があるからだ。


 また、自己流で闇雲に就職活動を続けるのではなく、スクールサイドとハロワが連携して就職先を紹介してくれることも考えれば、ほかに代わりがない貴重な支援といえる。


 非正規雇用のスパイラルに陥った人を、出口である「安定した雇用」につなげることは、相当に難しい課題である。雇用情勢が多少好転したとしても、一朝一夕に達成できるものではないことは、肝に銘じるべきだろう。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)



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