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富士フイルム、ゼロックス買収失敗の様相…経営混迷招いた古森会長、問われる経営責任

  • 2018年 05月16日 01時40分
  • 提供元:Business Journal
富士フイルム、米ゼロックスを買収(ロイター/アフロ)

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富士フイルム、米ゼロックスを買収(ロイター/アフロ)

 富士フイルムホールディングス(HD)による米ゼロックスの買収計画が二転、三転し、混迷の度を深めている。


「富士フイルムHDの古森重隆会長兼CEO(最高経営責任者)とゼロックスのジェイコブソンCEOの、いわゆる“ボス交”(ボス同士の交渉)で、今回の買収のディールは決まった。これに米国の裁判所が疑義を差し挟んだ。そこで、ゼロックスが企業防衛に動いたため混乱したという、わかりやすい図式だ。破談もやむを得ない」(買収問題に詳しい在米の弁護士)


 破談に至るまでの経緯をたどってみた。


 まず、米ニューヨーク州上級裁判所が4月27日、「買収手続きの一時停止」を命じた。これは「富士フイルムHD側の敗訴判決に等しい内容だった」(同)という。


 買収計画の差し止めを命じるニューヨーク州裁判所の仮処分は、正式な判決まで効力が続くため、富士フイルムHDの買収計画が長期化する可能性が高まった。


 次に、ゼロックスが動いた。5月1日、「富士フイルムHDによる買収提案を見直す」と発表した。買収に反対している大株主のカール・アイカーン氏らと和解。ゼロックスの取締役の数は10人だが、大株主のダーウィン・ディーソン、アイカーン両氏が提出した6人の取締役候補を受け入れ、ジェフ・ジェイコブソンCEOら現在の取締役7人が辞任するという和解内容だ。ジェイコブソン氏は事実上の解任に近いかたちで辞任を迫られたとみられる。


 新たな経営陣とアイカーン氏ら大株主が主導して、富士フイルムHDによる買収の代替案をまとめる。「富士フイルムHDによる買収計画は白紙に戻った」と見られていた。それは、アイカーン氏らが推薦した役員が取締役会の過半を占めることになるためで、富士フイルム側の買収提案が通る可能性は限りなくゼロに近づいたとの観測が大勢を占めた。


 富士フイルムHDは「(買収)契約は法的拘束力を持ち、ゼロックスの新経営陣にも履行を求めていく」としており、ゼロックスが大株主のカール・アイカーン氏らと合意した和解に対し5月2日、ニューヨーク州上級裁判所に異議を申し立てた。米裁判所は3日午後、聴聞を開き、富士フイルムHD、ゼロックス双方の主張を聞いたが、「意見が出揃っていない」として和解が有効かどうかの判断を保留した。富士フイルムHDは「裁判所が和解案を認めるか否かの最終決定を留任したことは、妥当な判断」とのコメントを出した。


 その後、ゼロックスの経営陣がまた動いた。3日夜までの裁判所の承認が和解の条件だったことから、3日深夜「条件が満たされず和解は失効した」と発表した。和解が成立しなかったため、ディーソン氏は差し止め訴訟の取り下げができなくなり、和解案は失効。ジェフ・ジェイコブソンCEOら、富士フイルムHDの買収提案に前向きな取締役などが一転、留任することになる。合意してから、わずか2日で和解案が取り下げられたわけだ。ゼロックス経営陣の混乱ぶりが際立っている。


 すかさずアイカーン氏らは4日、ゼロックス株主に書簡を送り、「経営陣が自らの都合で約束を破り、和解案を失効させた」と非難するとともに、「多くの株主が私たちを支えてくれた。ゼロックスの救済と再生のために闘い続ける」と宣言した。買収をめぐる富士フイルムHDと“物言う株主”の対立は一層、先鋭化してきた。


 ゼロックスは5月13日、富士フイルムHDによる買収合意を解消すると発表した。買収に反対する大株主のカール・アイカーン、ダーウィン・ディーソン両氏と改めて和解し、アイカーン氏が推薦する取締役を受け入れる。ゼロックスはジェフ・ジェイコブソンCEOを含む6人の取締役が退任したことを明らかにした。6月以降に開く株主総会でアイカーン氏が推薦する5人の取締役が就任する。アイカーン氏のアドバイザーを務めるジョン・ビセンティン氏がCEOに就任する予定。ゼロックスの取締役会はアイカーン氏側のメンバーが過半数を占めることになる。アイカーン氏は文書で「ゼロックスが最終的に富士フイルムとの合意を撤回したことは非常に喜ばしい」とし、ビセンティン氏が新しいCEOに就くことを歓迎すると表明した。


●株主総会はどうなる


 今回の物言う株主との和解を受けて、6月13日に予定されていた米ゼロックスの株主総会は延期される。ロイター通信は「ゼロックスは今後、入札により売却される可能性が高いとみられる」と伝えた。カール・アイカーン氏は5月7日、ゼロックスの株主に宛てた書簡で「ゼロックス株1株当たり40ドル(約4400円)以上を富士フイルムが提示すれば買収提案を検討する」と表明した。


 NY株式市場のゼロックスの株価(7日の終値は28.46ドル)の1.4倍だ。「すべて現金で最低でも1株40ドルの値付けならば真剣に検討する」としている。すべて現金というところがアイカーン氏らの主張の根幹だ。米投資会社がゼロックスの買収に関心を示しているとの現地からの報道もある。もし米ゼロックスの入札が行われるとするなら、この「1株当たり40ドル」が入札の目安になるかもしれない。


●ボス交には当初から不透明感が漂う


 米ウォール・ストリートジャーナルは、「米ゼロックスのジェフ・ジェイコブソン最高経営責任者(CEO)が、取締役会で反対意見があったにもかかわらず、買収交渉を進めた」と報じていた。「(一度は退任が決まったが、一転して留任した)ジェイコブソン氏が保身を目的に売却先を富士フイルムHDに決定し、他社の買収提案を受け入れにくくした」と現地では伝わっていた。


 裁判所の判事は、ジェイコブソン氏が「自らの地位を守るため、株主の利益を犠牲にして富士フイルムHDとの交渉をまとめた」と認めた。「取締役会の監視体制に不備があった」と指摘し、ジェイコブソン氏ら経営陣の主張は「信用できない」と、かなり踏み込んだ。


 つまり、仮処分を決定した裁判所は、買収を受け入れたゼロックス側の判断に問題があったと認定したことになる。


 そもそも、この買収のスキームは富士フイルムの古森会長と、来日したジェイコブソン氏が、二人三脚で練り上げたものといわれている。再編のキーマンだったジェイコブソン氏が米ゼロックスを去ったため、このディール(取引)は有名無実となった。アイカーン氏らは株主への書簡で「ジェイコブソンCEOが辞任の見返りに多額の退職金を要求した」ことを明らかにした。ジェイコブソン氏を含む今回退任した取締役の退職金にも、今後、関心が集まるだろう。


●富士フイルムHDは戦略を根本的に見直し


 富士フイルムHDは18年秋にも買収を完了するとしていた。しかし、裁判所の判断やゼロックスの統合の見直し→大株主との電撃的な和解→さらに和解の失効→買収計画の白紙撤回と進み、買収推進派の役員が総退陣したことで、富士フイルム側は苦しい立場に追い込まれた。


 富士フイルムHDは買収の一時差し止め命令に対しても5月4日、不服として上訴した。ゼロックスも同日上訴し、歩調を合わせた。ゼロックスが法廷闘争する必然性がなくなった。富士フイルムHD側には「ゼロックスの新経営陣が一方的に契約を履行しない場合は、損害賠償請求を考える」との強硬論もある。とはいえ、「法廷闘争に移っても、富士フイルムHD側が勝てる可能性は低い」(前出弁護士)といった悲観的な意見もある。


 買収が1年以上遅れれば、海外戦略の見直しは避けられないとされていたが、白紙撤回となればゼロから再検討するしかない。


 今後、富士フイルムHDの株主からも批判や懸念の声が出てくる可能性は高い。富士フイルムHDの5月18日午後3時からの決算発表や6月末の株主総会にも関心が集まる。


 富士フイルムHDの“ドン”と呼ばれる古森氏は、買収計画にまつわる混沌・混乱についてどう説明するのか。古森氏とジェイコブソン氏の個人的な関係だけに頼った買収計画の是非が、株主総会で問われることになる。


 5月2日の東京株式市場で富士フイルムHDの株価は、買収の失敗を嫌気して5%超(270円)安の4091円まで急落。連休明けの5月7日には一時、4061円まで下げ、年初来安値(3月26日の4075円)を下回った。株価の下落が続けば、富士フイルムHDの株主のフラストレーションはさらに高まることが予想される。
(文=編集部)



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