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【V系】80点はいても120点がいない? 18年「V系シーン」総括座談会&19年展望

  • 2019年 01月22日 17時30分
  • 提供元:ウレぴあ総研
バンドマン同士の横のつながりが強くなった時代

藤谷:もはや毎年恒例になりつつある、「ウレぴあ総研」のヴィジュアル系シーン総括座談会です。


今年は雑誌「ROCK AND READ」の編集長の吉田幸司さん、DJ・ラジオパーソナリティの浅井博章さん、そしてブロガー・ライターの神谷敦彦さんをお招きして行いたいと思います。


2018年はhideさんのアニバーサリーイヤーということもあって、hideさんの映画やイベント、TV番組など、改めてhideさんの功績を振り返るコンテンツも多かった1年でした。


その他にはlynch.が幕張メッセワンマン公演を成功させたり、2度目のLUNATIC.FESTが開催されたり、ToshlさんやYOSHIKIさんらのバラエティ出演も目立っていたように思います。


単刀直入にお伺いしますが、今年はどんな年でしたか?


吉田:2018年は印象に残るツーマンライブが多かったですね。R指定が”首取り”と銘打って、先輩に挑む果たし状ツーマンシリーズ(※1)をやったり、DEZERTもLM.Cやlynch.とツーマン(※2)していた。世代の違うバンドが真剣勝負しているのが刺激的で面白かったな。


下の世代のバンドが臆することなく上の世代のバンドと真っ向から戦うというのがいいし、後輩に対して容赦しないMUCCやlynch.を見ることができたし(笑)。


※1「R指定主催果たし状ツーマン企画」
5月から6月にかけて、R指定が東京・TSUTAYA O-EASTにて、Plastic Tree、A9、lynch.、LM.C、MUCCとそれぞれツーマンを行った。


※2 DEZERTは「【This Is The “FACT”】-EXTRA-」にて、己龍、lynch.、LM.Cとツーマンライブを行った。


藤谷:今年はアルルカンもlynch.とツーマンライブ(※3)を行いましたね。中堅どころとされるバンドが若い世代と共演するようになった感はありますね。


※3 6月にlynch.とアルルカンによるツーマンライブ「laughing in the dark」が開催された。


神谷:2016年のVISUAL JAPAN SUMMIT以降、ヴィジュアル系シーン全体が再統一されているじゃないですけど、集まるようになってきた流れはある。


2016年にはミヤさん主宰のCOMMUNEもありましたし、活動期間が長い世代が音頭をとっていたのが、徐々に次の世代にも広がってきて、次の世代がヴィジュアル系を盛り上げ始めている。2016年からの流れが継続されているように思います。2018年はBugLug主催のバグサミもありましたしね。


浅井:昨今は昔と比べて、明らかにヴィジュアル系バンド同士の横のつながりが強くなっているのは感じています。昔はバンドマン同士が友達であっても対バンは中々成立しなかった。


ある程度シーンの中で頭一つ抜けてくると、「今の若いのと俺たちを一緒にしないでほしい」みたいな、後輩を相手にしない時期があったと思うんです。最近は自分たちへのリスペクトを表明するバンドを素直に認めている傾向にあると思います。


吉田:00年代までは雑誌の取材でも、自分たちが影響を受けたバンドの話になると、洋楽のバンドはいいんだけど、邦楽のバンドになるとオフレコになるケースが多かった。「Xが好きです、LUNA SEAが好きです」みたいなところはNGになっていた。それがいつの時期からか言えるようになったんですよね。


昔は、自分たちがオリジナルだというプライド、意識があったから、堂々と言えなかったのかもしれない。あるいは、かつては憧れていたといえ、今は同じ土俵に立っているとライバル視していたのかも。


浅井:本人たち云々というよりは、レコード会社や事務所から止められていたケースも多かったと思いますよ。実際ヴィジュアル系ではないアーティストが「LUNA SEAが好き」みたいなことを言っていたから、番組で「あの人たちLUNA SEA好きなんだって」と言及したら、あとからクレームが来たことがあって(苦笑)。


藤谷:イメージの問題でNGだったと。


浅井:そういうことですね。偉大なのはGLAYとL’Arc~en~Cielで、あの頃バンドやってた子は、全員どっちかのコピーバンドはやってるから。つまり、全ジャンルのロックバンドがヴィジュアル系からの影響を公で言えるようになった。


藤谷:LUNATIC.FEST(※4)でもTHE ORAL CIGARETTESの山中さんもMCで「こっちの畑(ヴィジュアル系)」からの影響を公言されていましたね。


※4 2018年の6月23日、24日の2日間に渡って「LUNATIC.FEST2018」が幕張メッセにて開催された。


浅井:もちろんヴィジュアル系の人だって、リスペクトを口にするようになった。その結果、シーン全体が風通しがよくなった感はあるかもしれない。世間のヴィジュアル系に対する風当たりは10年前と比べたら遥かに弱いですし、シーン全体が世間から認知されているというのも大きいかもしれない。


藤谷:とはいえ、レジェンド世代は確固たる存在感を出していますが、一方でインディーズの方を見ると……、世間からは見えづらくなっているなと。「本当に好きな人」以外には今どんなバンドが居るのか? ということが知られていない印象があります。


浅井:今年起きた出来事の中で僕が色々振り返って、非常にひとつ象徴的だなと思ったのが、R指定のボーカルのマモくんがソロライブで、自分の切った髪の毛をビニール袋に入れて配布したんです。SNS上でもかなりざわついたわけで。


あれは自分のファンに向けてやったわけで、ファンの子たちが喜んでいるのであれば、外野がとやかく言うことではないというのが大前提なんですが、周囲は「キモい」というじゃないですか。でもR指定のファンの子は、熱狂的に喜んでいる。これが今のヴィジュアル系を代表するR指定というバンドと、バンギャルという個性的な人たちの、ひとつの形なのかなと思ったんです。


藤谷:大人や世間から眉をひそめられるのがヴィジュアル系みたいなところあるじゃないですか。真っ黒な服を着て地元を歩いているだけで後ろ指をさされる的な。


浅井:今のヴィジュアル系はちょっと病んでいる、いわゆる「メンヘラ」というか、一般社会の常識とは違う、変わった性質の人が多いということを象徴するような事件だったのかなと。


吉田:ただ、最近の若手を見ると、同じような写真を撮って、同じような曲を作って、同じようなパフォーマンスをするバンドばかりだなと感じることが多いんです。残念ながら。


音源でちょっと気になって期待してライブに行くと、がっかりしてしまう。明らかにギターシミュレーターで作った音、エア感のない打ち込みっぽいドラム、同じ煽り方、同じ加工のアーティスト写真、それじゃ広がらないでしょうっていうのはずっと思っています。


神谷:バンドの公式サイトも全部同じシステム会社なのか? ってくらいフォーマットが似通ってしまっていますね。ゴールデンボンバーのウィキペディア風のサイトは4人のキャラクターに沿いつつ、最近ファンになっても情報を辿りやすいです。


GRIMOIREはパソコンの公式HPに飛んで「disco」をクリックしようとすると「おはなし」に変わったりと、グローバルメニューといった細部も世界観に沿ったサイトになっています。そういうところまで手が込んでいるバンドは気になってしまいます。


今のヴィジュアル系は新しいことに消極的?

藤谷:やっている本人たちは「他と違うこと」と思っているのかもしれないですけど、事実として頭一つ抜けてるバンドが少ないという現状がありますよね。


今年は音楽サイト「リアルサウンド」でも総括座談会をやったんですよ。やっぱりそこでも、ヴィジュアル系サウンドの魅力って流行り廃りはあれど「なんでもあり」だったはずなのに、今はアイドルやYouTuberの方が「なんでもあり」に見えてしまうと。


吉田さんは「IDOL AND READ」を発行していたりと、現代の最前線のアイドルにもお詳しいじゃないですか。もしかしたら、何か新しいことをしたいと考える人は、ヴィジュアル系には行かないのでは……と思ってしまうんですよ。


吉田:実は元ヴィジュアル系バンドマンや関係者がアイドル運営や楽曲制作をやっているケースは多いんです。アイドルの方に自由さを感じているのか、他にはないことをやろうというヴィジュアル系魂を持った人が増えてきている感はありますね。


浅井:今ヴィジュアル系シーンで、新しいことをやってお客さんが入るなら、皆やっていると思うんです。ここ10年くらいで、新しいことをやって成功したのはゴールデンボンバーくらいで、新しいことをやって上手く行っているケースは少ないですよね。


そうなると、皆成功しているバンドに影響されていって、その結果「どこかで見たようなバンド」になる。個性が出てくるとしたらボーカルの声や顔、キャラクターとMC、くらいしか差が見つからなくなった。


神谷:例えばPOIDOLの綾瀬ナナさんや、まみれたの伐さんはライブで踊ったりしているじゃないですか。そういったパフォーマンスで他と差別化を図ろうとしている印象もありますね。お二人ともダンスという「自身のルーツの中にあるもの」で勝負されているんです。


藤谷:極端なことをいうと、ヴィジュアル系って世間から見たら、ニッチなジャンルになっている。そのコップの中の流行りにステータスを全部振ったとしても、参照元以上にブレイクすることは少ないのではと思ってしまいます。


SNSがあればメディアは不要?

神谷:最近僕のところに来るマシュマロの(※5)メッセージで、気になる意見があったんです。


投稿者の方の好きなバンドは、「雑誌とかテレビに取材される気なんかまったくない」と。さらには「広告費を払ってメディアに載るくらいなら、SNSやYouTubeで直接繋がったほうが早いと考えている」という投稿をいただきました。


もしかしたら20代くらいのスマホやSNSが一番身近なメディアであるバンドの人は、雑誌などのこれまでを作ったメディアの必然性を感じていないのかもしれないと思ったんです。


※5 匿名のメッセージ、質問を受け付けるサービス。AIによってネガティブなメッセージは当人に届かないというシステムが売り。


吉田:実際にあるバンドマンから「雑誌に興味ないです」と言われたことはあります。90年代初頭とかだと、例えば黒夢なんか、雑誌で1ページの取材でも名古屋から車で飛んで来てましたもんね。雑誌としては悲しきかな……。


藤谷:先程のR指定のマモさんの、髪の毛云々の話も全部バンド〜SNS〜ファンで完結してますから、メディアの入る余地がない話ですよね。


浅井:それはヴィジュアル系に限ったことではなくて、ファンとアーティストの間にメディアがあるという時代ではとっくになくなっている。例えば、lynch.がアルバムを出すと葉月さんがツイッターで全曲解説を始めるでしょ。それを見た時「聞くことなくなっちゃうじゃん!」って思いましたよ(笑)。


他にもバンドをゲストに呼んで、ラジオでフランクに語る……みたいなことも、今はツイキャスやニコ生でやっちゃいますしね。じゃあラジオとニコ生の違いといえば、ニコ生は基本的にファンしか見ないものなので、新規ファンを獲得するのは非常に難しい。ツイッターもそうですよね。雑誌やメディアには違う効果があるということを武器にするしかない。


吉田:今年ゴールデンボンバーの鬼龍院翔さんに「ROCK AND READ」へ出てもらったんですけど、約7年ぶりの登場だったんですよ。その間ずっと口説き倒していて、ようやく出てくれた。そしたら、やっぱり読者からの反響がすごかったですね。


藤谷:きっとファンの人も求めていたんでしょうね、SNSやブログではない、メディアを通した言葉を。先日も己龍のTV出演には大きな反響がありましたし、メディアならではの魅力の引き出し方や宣伝効果はあると思うんですよ。


神谷:ゴールデンボンバーの歌広場さんに取材したときにも「ヴィジュアル系を守るためには、大きくしていくには、ジャンルの外にいって活動していくことも大事」という話はされていましたね。外に出かけて伝えていく行動がジャンルを大きくするかもです。


浅井:近年ヴィジュアル系の傾向として、無料ライブがすごく増えましたよね。その中でも無料ライブの権化みたいなバンドがいるんですよ。


藤谷:えんそくですね。


浅井:O-WESTで1週間無料ライブなんてバカなことをやったという(笑)。


藤谷:今年彼らに取材したときに、ついつい「財源は?」と聞いてしまいましたね。それに忘れがちですが、7日連続で毎日ライブしているという時点で、ちょっと狂ってますからね。すごいライブバンドですよ。


浅井:あの心意気はすごい。でも、ああいうイベントもメンバーがツイッターで告知したところで、結局その波及範囲も限られてくる。無料ライブはプロモーションのためにやるものだから、とにかく、メディアでもなんでも使ってバンバン宣伝して、一見さんを呼ばないと意味がない。


藤谷:さすがに「O-WEST1週間」はインパクトあったので、宣伝効果はあったと思うのですが、単なる「無料ライブ」だと記憶に引っかからずに「あれ? もう終わってたんだ」みたいなケースも少なからずありますね。


ちなみに今ちょっと調べたら、1月から関西のてんさい。というバンドが全国5箇所で無料ワンマンツアーを、2月25日に0.1gの誤算が新宿BLAZEで無料ワンマンライブを行いますね。これを読んでいる人は気になったらチェックしてみてください。


浅井:無料ワンマン流行りといっても、チケット代って3000〜4000円くらいですよね。どうしても出せない金額じゃないし、まず「行きたい」という気持ちにさせることも大事ですよね。


神谷:メディアに求められている役割の一つで言うと、曲や音楽の話をすることだと思います。


忌野清志郎さんが2009年に出した「ロックで独立する方法」という本の中で既に、音楽が統計の話題にすり替わっている状況に対して問題提起をしています。GLAYのライブに何十万人集まったとか、B’zのベストアルバムのセールスがどうとかいう話は音楽の話ではないということです。


ヴィジュアル系もキャパやセールスだけをもって勢いがある無しを見るのは、統計の話題です。


「ヴィジュアル系」を定義するのはファン?

吉田:近年の新しい流れとして、luz(※6)や、佐藤流司のThe Brow Beat(※7)といった「ヴィジュアル系ではない出自の人がヴィジュアル系的なことをやっている」というのがあると思うんです。


※6 ソーシャルミュージックシーン発の男性シンガー。サポートメンバーにLeda(Far East Dizain)、RENO、MASASHI(Versailles)、淳士(SIAM SHADE/BULL ZEICHEN 88)らが参加している。


※7 俳優の佐藤流司がRyuji名義で行っているバンドプロジェクト。PENICILLINのHAKUEIがプロデュースを手がけている。


浅井:しかし、ヴィジュアル系出身ではない人をヴィジュアル系として売り出して成功した例は過去にないですよね。なぜなら、ヴィジュアル系であるかそうでかないかを決めるのは、お客さんだと思うからです。


ライブに来ているお客さんがバンギャルだったらヴィジュアル系、ステージ上でやることがどれだけヴィジュアル系然としていても、お客さんがヴィジュアル系じゃなかったら、認められないという結論になる。


藤谷:「ヴィジュアル系の出自ではない人が〜」の先駆者といえるjealkbも武道館を目指して頑張ってはいるものの、そもそものタレントとしてのポテンシャルを考えると難しい規模感ですよね。


浅井:僕はOsirisというバンドが好きで、自分のイベントでもよくかけているんですけど、彼らは携帯ゲーム『バンドやろうぜ!』(※8)の企画バンドですよね。昔でいう『快感♥フレーズ』から出てきたΛuciferみたいな。


曲はパーフェクトにヴィジュアル系なんですよ。めちゃくちゃカッコいいし超上手い。でもお客さんを見るとバンギャルは多くはない。


※8 2016年にスタートし、2018年8月に配信終了したスマートフォン向けリズムゲーム。ゲーム内バンドが実際にリアルなバンド活動も行っていたことも話題に。なお吉田さんが過去に編集長をつとめていた雑誌とは関連性はありません。


藤谷:The Brow Beatのライブには行ったことがありますが、体感2割くらいはバンギャルさんがいるかな? という感じですね。HAKUEIさんがプロデュースしていて、ライブにも出演されているので、その影響もあると思いますが。


浅井:やっぱりヴィジュアル系のお客さんって、叩き上げで高田馬場エリアから頑張ってきました的な、自分たちが売れない頃から応援していたとか、そういうストーリーがないと、ヴィジュアル系として認められない傾向にありますよね。


藤谷:他のエンタメにヴィジュアル系要素を見出しているバンギャルさんはたくさんいると思うんですが、それも皆バラバラなので、難しいところではありますよね。


吉田:ゴールデンボンバーはどうなんでしょう。


浅井:ゴールデンボンバーは最初からヴィジュアル系として、お客さんが10人とかの頃から、池袋サイバーとかにも出ていたので、その定義からは外れていないわけで。


神谷:鬼龍院さんのインタビューでも、ヴィジュアル系を選んだ理由のひとつとして、「お客さんが受け入れてくれそう」というのはあったそうです。「ヴィジュアル系」のお約束の定義を満たしていたら、音楽的には何でもできるという文化がヴィジュアル系にはあったのでは。


藤谷:「バンギャルさんが聴く音楽=ヴィジュアル系」であるならば、「結果的にバンギャルさんが面白がっていたらなんでもあり」だったのが、「最初からバンギャルさんの好きそうな音楽や歌詞」を狙っているような変化を感じますね。杞憂だといいんですけど。


吉田:新しめのバンドでいうと、僕はぞんびにめちゃくちゃ期待しています。とくに今年出した『クソったれが』と、そのカップリングの『餞の唄』がすごく良くて。


ただ、その次に出したシングルがバンギャルのことを意識してなのか、両A面のうちの片方はX JAPANのカバーだった。そこは正直、すべてオリジナル曲で勝負してほしかったですね。ぞんびの売りは、話題性でバズらせることではなく、曲の良さだと思うので。


神谷:バンド側がどうなりたいのかも変わってきたように思います。たとえば武道館やアリーナクラスまで行きたいのか、それとも中規模で長く安定してバンド活動を続けるなどの別の道を進みたいのか。


インタビューを読んでいると、規模を追求するよりも長く続けることに重きを置いている発言によく出会います。バンドの成功の定義が変わっているのでしょうか。


浅井:現実的な問題として、頭打ちになったらどうするのかというのがありますよね。今年とあるバンドマンからしみじみと相談されたことがあって。「もう活動休止したほうがいいんですかね僕たち」と。


要するに、絶対の自信がある曲を出してツアーをやって、できることは全部やっている。でもどうしても動員が伸びない、そうなるとファンも疲弊していくし、その状況も不本意だ。そういうときに、周囲のバンドが活休して、復活ライブをソールドアウトさせているのを見ると、羨ましいじゃないけど、腑に落ちない。ずっと地道にやっている自分たちの方が損した気持ちになるって。その愚痴もわからんでもないなって。


神谷:難しいですよね。ヴィジュアル系かどうかを決めるのはファンの方というけれど、ではそのファンを惹きつけるものはなんなのか。叩き上げからやってきたアーティストを応援するというストーリーであれば、アイドルもYouTuberもお持ちです。叩き上げストーリーはヴィジュアル系だけのものではなくなってしまっています。


ヴィジュアル系をヴィジュアル系たらしめるものはなんだろうと考えちゃいますね。「バンドである」とか、「曲がいい」だとか、プリミティブなところに戻っているのが今だと思います。


藤谷:そうなると単に「曲の良いバンド」ですよ。「ヴィジュアル系」バンドとは? ってなりますよね。


神谷:仰る通りで、「曲の良いバンドとは」から定義し直す時期なのかなと思います。


極端な話、「ヴィジュアル系らしくあろう」という意識を一度取り払ってもいいのかなと思います。「ヴィジュアル系らしくあろう」と考えている時点で、今あるものや過去にあったものに似せるコピーの思考になってしまってますし。


藤谷:ただ、Rides In ReVellionのように若い世代がいわゆる王道と呼ばれるような世界観のあるヴィジュアル系をやっているのは面白いと感じています。


80点はいるけど120点がいない

吉田:今の若手のシーン全体の傾向ではエクストリームメタル系が強いのかな?


藤谷:JILUKAは演奏力に定評がありますよね。


神谷:もしかしたら演奏力に回帰しているのかもしれない。バンドにしか出せない価値と考えられるものの一つとして。


浅井:その一方で0.1gの誤算のような、煽りが上手くてMCや歌詞が面白いバンドが人気ですよね。


神谷:勝負できるところで勝負しているという意味で潔いですよね。


藤谷:今年、「渋谷が大変」の主催の方にインタビューしたときにも、0.1gの誤算や甘い暴力みたいに引き出しがたくさんあって楽しいバンドか、キズみたいにMCもほぼないストイックなスタイルと二極化しているという話をしていたんですね。それは私も実感としてありますね。


吉田:いい曲はたくさんあるし、いいバンドもいる。でも決定的な存在がいないですよね。80点くらいのバンドが多くて、120点がいない。


藤谷:80点を120点にはできないかもしれないですが、90点に持っていくのもメディアの役割かなと思うんです。今のヴィジュアル系って金爆と大御所以外は世間からは注目されてないジャンルですし、若手をどうやって周知させていけばいいのかはよく考えます。


浅井:今のヴィジュアル系のインディーズに関して言うと、ヴィジュアル系の外にアプローチしていこうとするバンドよりも、「バンギャル大歓迎!」みたいなスタンスのバンドの方が注目されやすい傾向にあるのかな。


吉田:lynch.が数年前にヴィジュアル系ではないフィールドに出ようと、メイクを落としていた時期があるじゃないですか。それでCrossfaithと対バンしたら全然受けなかったと。


ところが、その後のCrossfaithとの対バンで逆にヴィジュアル系を全面に出したら、今度は反応が良かったっていう話をしていたんですよ。それも象徴的なのかな。決してヴィジュアル系は外で受け入れられないジャンルではないという。


神谷:ヴィジュアル系以外に出ていくときも、相手に「寄せて」いってるよりは、自分たちの美学を貫いたほうがいいのでしょうね。


藤谷:the GazettEはROCK IN JAPANや氣志團万博などのフェスでも清々しいくらい通常営業ですね。氣志團万博は今年で4度目の出演ということもあって、夏でも黒服のバンドとすごいヘドバンをするファンも含めて、すっかり周知されて半ばホームみたいになっているという面白みがありますね。


吉田:X JAPANはどこのフェスでも受けますよね。


浅井:XやLUNA SEAクラスになると、そもそもお客さんが世代だったり曲が知られていますよね。


吉田:圧倒的なパフォーマンス力もあると思うんですけどね。


藤谷:どう考えても初見が多いであろうコーチェラの映像を見ても、Xは常にブレないなと思いました。


吉田:アウェイのフェスでお客さんを掴むには、誰でも知ってるヒット曲がないと難しいと言われますよね。TOKIOとか山下達郎さんとか、やっぱりヒット曲をやったら人がぞろぞろ集まってきて、ものすごく盛り上がったらしいですし。


藤谷:今年はHYDEさんはソロでフェスに出たじゃないですか。もちろんソロの楽曲がメインですけど、L’Arc~en~Cielの『HONEY』をやると老若男女”知ってる!”となるわけで。


浅井:JさんだってLUNA SEAの『TONIGHT』やりますからね。ヒット曲をフェスでやるっていうのは大事なことなんだなと思いますね。


吉田:元ViViDのSHINさんが、イベントで『GLAMOROUS SKY』(※9)のカバーをやって注目を集めたという話もありますね。


※9 中島美嘉が「NANA starring MIKA NAKASHIMA」名義でリリースした楽曲。映画「NANA」の主題歌として知られている。作曲・プロデュースはHYDE。SHINは2018年5月にこの曲のカバーを配信限定でリリース。


藤谷:そういう意味では、2018年のニコニコ超会議の音楽イベントに出ていたアルルカンが印象に残っています。


話題になっていたのでタイムシフト視聴したんですが、アウェイな空気が漂ってた会場やコメントの流れを一気に変えていた。もちろんアルルカンには「誰でも知ってる曲」という武器はないわけで、あれはいいものを見ましたね。課金してよかった〜!


2018年の名盤は?

藤谷:2018年のよかった作品の話もしたいですね。


吉田:圧倒的にDEZERTの『TODAY』ですよ。さっきも言いましたけど、ぞんびの『クソったれが』も好きですね。


藤谷:吉田さんはツイッターでも『TODAY』推しまくってますよね。どの辺りが魅力なのでしょうか。


吉田:『TODAY』は……すべてですね! それこそ言葉にできない良さがありますよ。


神谷:歌詞が良かったですね。『蝶々』や『浴室と矛盾とハンマー』などが特に誰宛の曲なのかが明確でした。行き場所がない人のための歌詞だと感じます。


最後に『TODAY』が収録されていることで、過去でも未来でもなくて今が一番大事で、というような物語にたどり着いちゃった! というアルバム全体のメッセージも伝わってきます。


吉田:前作の『最高の食卓』のラスト曲『ピクトグラムさん』で歌っていたような、行き場所がない人を救うみたいな歌詞が多かったですよね。あとは、あえてかどうかわからないけど、『「殺意」』とか『「変態」』みたいなバンギャル受けしそうな曲よりも、スローテンポの曲に比重を置いたことで、歌詞と曲の良さが全面に出たアルバムになった。


バンギャルが物足りなさを感じる気持ちもわかるんですけど、ネクストステージに行ったアルバムだと思うんですよ。


神谷:ずっと聴いていられますよね。日常生活の中で普通に聴きたくなるというか。「過去や未来ではなくて、今この瞬間がリアルだから、今をしっかり生きよう」と受け取りました。


そういった意味ではキズの歌詞も「現在」を生きているということが感じ取れるんです。歌詞カード見ながら聴いていると痛みも感じるくらいです。自分に置き換えても痛みが今に蘇ってきますし、バンドを想像しても「今も苦しんでいる?」と思えるほど続いている感情があるように思います。


吉田:『0』もやばいですよね。他にはR指定『死海文書』も大好きなんですけど。宗教色が強くて、また他とは一線を画した、自分たちの新たな立ち位置をここで固められたと思うんです。


神谷:他にはDADAROMAの『トゥルリラ』も良い作品です。メンバー脱退を乗り越えたバンドの強さってありますよね。活動休止してパワーダウンするケースも少なからずあると思うんですけど、そこからもう1回新しいものを出してきた。しかも抑圧されたものから解放されて吹っ切れた軽やかさがありました。逆境をバネにするのはグッときます。


同じく脱退を乗り越えた摩天楼オペラの『Invisible Chaos』も力強かったです。環境や人のせいにせずに、もがきながらも前に進む力強さを表現されていたと思います。


藤谷:『Invisible Chaos』はカップリングの『It's You』も人間味溢れる歌詞が好きですね。


個人的にはKAMIJOさんのソロアルバム『Sang』が素晴らしかったんですよ。氏のライフワークであるフランス革命をテーマにしているんですけど、ライブでも関智一や杉田智和らの声優を起用してストーリーが進行していくんです。もちろん声優人気を当て込むではなくて、これは必要な演出なんですね。


ツアーを通して音と演出ストーリーを紡いでいく。「自分の世界を音楽で表現したい」といういい意味のエゴがほとばしっていて、本当にヴィジュアル系の極みだと思いました。


吉田:MALICE MIZERの25周年記念ライブ(※10)でもゲストボーカルとして出たKAMIJOさんを見たけど、もう笑っちゃうくらい突き抜けていましたね。あそこまでキャラを演じきれるのは本当にすごい。


※10 2018年9月に東京・豊洲PITにて、Moi dix MoisのManaとZIZのKöziらが中心になって「Deep Sanctuary 〜MALICE MIZER 25th Anniversary Special〜」を開催。石井秀仁、KAMIJO、Hitomi、Sakuraら、ゆかりのある人物をゲストに呼んで、MALICE MIZERの楽曲をフィーチャーしたステージを繰り広げた。


藤谷:KAMIJOさんはきっと笑われることは恐れてないというか、他者の視線で自分の美意識が傷つくということはなさそうな確固たる自信を感じますね。20年以上やってきたという自負と自信がある。


浅井:今年印象に残った作品は何枚かあるけれど、1枚あげるとするならば、Psycho le Cému の『Light and Shadow』です。


サイコというバンドが残した功績って、例えばゴールデンボンバーにつながるような、楽器を置いてパラパラを踊り出すパフォーマンスだったりとか、コントのようなことをするとか色々あると思うんですけど、当時は楽曲のクオリティに関しては僕の琴線に触れるものはなかったんです。


藤谷:たしかに、とくにメジャーデビュー後は企画色が強かった部分はありましたね。


浅井:それが、活休している間も、5人全員がそれぞれ音楽活動で飯を食ってきたわけじゃないですか。『Light and Shadow』を聴くとバンドの成長をすごく感じたんです。昔の代表曲を今のクオリティでアップデートしたような、マニアックな曲はよりマニアックに、ポップな曲はよりポップに、その上で今までにないようなテイストの曲も入っている。フルアルバムとしての完成度に感動しました。


Psycho le Cémuはやっぱり偉大なバンドだし、5人とも今もミュージシャンとして成長を続けているんだなと感激したという理由で、この1枚をあげたい。


吉田:彼ら、演奏もライブの見せ方も上手いですよね。ちなみに、気になった若手はいますか?


浅井:もはや「若手」ではないと思うんですけど、もうひとつ候補に挙げていたのは、BugLugの『KAI•TAI•SHIN•SHO』です。彼らは器用にいろんな音楽をヴィジュアル系に落とし込んでいて、いい意味での”変なこと”に果敢に取り組んでいたバンドです。最大限のリスペクトを込めて「変なバンドだね!」って言いたい。


今回のアルバムはバンドの危機を経て、さらに成長して帰ってきたなという印象です。


藤谷:彼らの所属するResistar Recordsも2019年で10周年を迎えます。レーベルメイトのBlu-BiLLioNもドラマーのSeikaさんのジストニアの手術のために一時的な活動休止状態に入ります。また元気な姿を見せて欲しいです。


発表のライブのときに「おじスターレコード」という冗談が出たんですが、本当におじさんになっても続いていくのを見たいですね。


2019年はどんな年に?

浅井:2018年、Purple Stoneというバンドが、解散を事後発表したんですよね。ファンの人の気持ちのやり場が無いようなことはやめてほしいな。


最後に全国ツアーとまではいかなくても、最後に思い出を作れるものであれば、悲しいけれど笑顔で送り出せるものを、ファンの人が知らないところで「解散してました」は悲しいので。


吉田:NOCTURNAL BLOODLUSTの一件も、僕もファンなだけにショックでしたね。


神谷:そこでファンの時間が止まっちゃう部分はありますよね。ずっと過去の中で生きてずっと悲しみ続けちゃうような。バンドのメンバー同士でそのバンドならではの仲がいいところを見るとファンの人は安心しますし。


浅井:「仲がいい」の定義も難しくって。それぞれ適切に距離を見つけ出しているバンドは長く続くと思う。そう考えると最近のバンドは長く続いてますよ。


昔はブレイクしたバンドはすぐ解散していた。BOØWYだってユニコーンだって、LUNA SEAだってメジャーデビューから解散、終幕までどのくらいの期間だったかというと……。


藤谷:今思うと短いですよね。もう「復活後」の方が活動期間が長いバンドもいますし。


吉田:D’ERLANGERなんてその典型ですよね。


浅井:最近は皆長くがんばるなあって。昔は「俺ほんとは別のことをやりたい」ってバラバラになるイメージがあったけど、今どきのバンドは大人だなって思いますね。


藤谷:長くやっているバンドも増えたし、ヴィジュアル系という言葉が生まれで30年くらい経っていて、ジャンルとしては成熟しているのかもしれない。


バンドが結成10数年目にして武道館みたいなケースってヴィジュアル系では中々ありませんが、そういうバンドも出てこないかな。さて、2019年はどんな年になるんでしょうね。


神谷:「他がやっていない」ことを活動や作品の基準にするだと、周りを気にしすぎて縮小再生産になってしまうと思うんです。好きなもの、自分が信じているもので突き抜けてほしい。そういうバンドが主流になったら面白いんじゃないでしょうか。


例えばSUGIZOさんってYouTubeの食レポ(※11)ひとつとっても、ひつまぶし食べながらウナギに「ごめんよウナギ、命を頂くよ」って謝っていたり、小宇宙を感じていたりする。それってすごくSUGIZOさんらしいじゃないですか。好きなことを見つめ直して、表現してほしい。


チェキだって批判されがちですけど、もしもチェキを使ってもっと突き詰めた表現をする人たちが出てきたら面白いのかもしれない。


※11 2018年夏、SUGIZO公式YouTubeにて突如アップロードされた「SugizoTube『天下一品 in 京都』」以降、不定期に食レポ動画を公開。食レポでも「バシがけ」「グルテン無礼講」などSUGIZO独自の言語センスを遺憾なく発揮している。なおToshlもYouTube動画を公開しており、X JAPANには2人YouTuberが在籍していることになる(のか?)。


吉田:ひとことで言うと、良い楽曲を出すバンドが増えて欲しいですね。説明できないくらい曲がいい、こんな曲今まで聴いたことがなかった! みたいな。


アイドルでも“楽曲派”と言われるグループは根強いし、先入観なく音楽が聴けるストリーミング時代なんだから余計に「曲がいいよね」という形でバズって欲しい。


藤谷:私はもっと説明したいし言葉を尽くしたいんですよね。アイドルだったりラップだったり、長く続いてるジャンルって「言葉」があるように思うんです。


ファンの語りだったり評論だったり、ヴィジュアル系は歴史の割には「言葉」が足りてないように思うんです。そういう場所が増えたらいいなと思います。


神谷:ファンの人も「参加する」ことが大事になってくるのかもしれません。これはヴィジュアル系に限ったことではなく、オンラインサロンなどでも「参加する楽しさ」が人が集まる、お金を払う理由になっているんです。


ビジネスの文脈でいうと「お金を払って参加する、働くという流れ」は既にあります。鑑賞する、消費するとは違った一緒に作る、参加するという気持ちを連動させたらシーンをもっと盛り上げることができるのかも。


浅井:僕としては、伸び悩んで苦しんでるバンドたちに、一組でも多く明るい光が射してくれることを期待するしかないですね。


他にはメンバーが誰一人ツイッターやらずに売れるバンド、要はファンから距離を置いているバンドが出てきたら面白いんじゃないかな。もうサービスエリアで食べたラーメンとかはSNSにあげなくていいから(笑)。


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