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[マンガのくに]俺の手塚治虫<2>「神様」は汗臭い肉体労働者

  • 2019年 02月13日 05時00分
  • 提供元:読売新聞
吉本浩二さんの手塚治虫(c)宮崎克・吉本浩二(秋田書店)2011

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吉本浩二さんの手塚治虫(c)宮崎克・吉本浩二(秋田書店)2011

 まず二つのカットを見てほしい。上は吉本浩二さん(45)の『ブラック・ジャック創作秘話〜手塚治虫の仕事場から〜』(原作・宮崎克、秋田書店)、下は藤子不二雄(A)さん(84)の『まんが道』(中公文庫)から。およそかけ離れた2人の手塚治虫。しかしふしぎな運命で結ばれている。
 吉本さんは富山県黒部市の出身で、同県出身の藤子不二雄(当時)にあこがれてマンガ家を志した。特に魅了されたのが『まんが道』。そこに描かれた手塚像が、そのまま吉本さんにとってのイメージだった。
 その後念願のマンガ家になったが、最初の10年間はあまり売れなかった。オートバイで日本一周の旅に出て、帰宅すると「週刊少年チャンピオン」から仕事の依頼が来ていた。手塚治虫の実録マンガ企画だった。
 「ちょっと……無理じゃないですか」。手塚治虫を描くということは『まんが道』に対抗することだ。「僕なんか力不足でおこがましい」。そう思って断りかけた。
 それでも、手塚さんのアシスタントを長く務めた福元一義さんには会いたいと思い、取材に同席した。話は面白かったが、絵にするためには具体像が必要だ。『まんが道』で手塚さんはいつもベレー帽と清潔な白シャツで仕事をしていた。「その服装でいいのでしょうか?」と、おそるおそる福元さんに聞いてみた。
 ――全然違います。夏なんてランニングシャツで鉢巻きして描いていました。
 「その一言で、描く勇気が出ました」と吉本さん。
 『ナニワ金融道』の青木雄二さんの原案でマンガを描いたこともある吉本さんの絵は、かなり個性的で暑苦しい。そのタッチを思い切りぶつけた。スマートさのかけらもない、汗臭い肉体労働者としての手塚治虫。「ここまで描いていいのかなと自問自答し、葛藤したこともありますが、ありがたいことに、絵に関して何か言われることはありませんでした」
 2009年から始まった『ブラック・ジャック創作秘話』は反響を呼び、2回限りだったはずの連載は単行本5巻を数えた。吉本さんは実録マンガ家としての評価を固め、現在は1960年代のマンガ編集者群像を描く『ルーザーズ〜日本初の週刊青年漫画誌の誕生〜』(双葉社)を「漫画アクション」で連載中だ。
 「手塚先生を神様だと思ったままだったら、手が震えて描けなかった」と吉本さん。「神様は自分と違って当然と思うじゃないですか。でも、汗をかく手塚治虫だったら自分と同じ人間。こんな自分でも頑張ろうって思う人がいるんじゃないかって……」
 『創作秘話』は『まんが道』が作った「神様」の偶像をぶち壊した。それは手塚治虫像を平成にふさわしく“更新”することでもあった。改めて二つの絵に戻ると、さっきと違って、そっくりに見えてきませんか。どちらも見事な「俺の手塚治虫」なのだ。(編集委員 石田汗太)

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